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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章
『おお 運命の女神――』
幾多の人間を挫折に追い込もうが、顔色一つ変えず粛々と己の職務を全うする “運命の女神”
華奢な身体を憑代に、自分にそれを降ろしたヴィヴィは、
肩高へ上げた右腕の先、限界まで上半身を倒して指先を伸ばし。
空を掴んだ右腕は、背中の方へ引き込む様に肘を入れる。
そして腹に巻き込んだそれを庇うように左腕で抱くと、
胸前、両腕でボールを保持する様に保ち。
赤く縁取られた唇を険しく開きながら、細腰を起点に上半身をぐるりと大きく旋回させる。
『お前は 移ろう月の如き
絶えず姿を変え――』
朗々と謳い上げられる合唱の中、助走し踏み切ったのは、
2回転アクセル+3回転ループ。
前半とは打って変わった、どこか男前で豪快なジャンプに、
エレメンツが決まる度、会場からは黄色い歓声が上がっていた。
『満ち欠けを繰り返す
情け容赦無い 忌むべき世界』
囁く様な混声の歌声と、ファゴットの小気味良い刻みが響く中、
アクセルに次いで高難度の3回転ルッツを、余裕をもって降り。
『気まぐれに喜びを与え 人の心を弄び
貧乏も権力も
氷のように溶かしてしまう』
“運命の女神” の無慈悲さが謳い上げられる中、
間髪入れずに飛んだ、3回転フリップ+2回転ループ+2回転ループ。
『おぞましく空虚な運命よ
お前は回転する車輪のように』
バックでの助走中、片手でフリーレッグの左足首を掴み、頭上へと引き上げ。
『悪意に満ち 幸福を無にする』
青地に映える山吹色のスカートをはためかせたのち、それを打ち捨てるように放り投げ。
そのまま踏み切った、3回転サルコウ。
そして、
ツイズルから入る、ステップ・シークエンス。
ここまでで かなり体力を消耗し、集中力が途切れそうになりながらも、
ぐっと赤い唇を引き結んだヴィヴィは、真っ直ぐに先を睨み付けていた。