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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章
「うん。ほら、大体の人がそうだと思うんだけど、地方から都心へ出て来たり。高校までの友達とバラバラになったりして……」
「そうだね~。かつて知ったる世界から、見知らぬ世界に飛び込まなきゃって言う」
ヴィヴィの言葉にそう続けた粋。
「私、幼稚園から高校までずっと1クラスで、幼馴染達と過ごしてきたのね」
珍しくテレビの前で身の上話をするヴィヴィに、2人は静かに相槌を打つのみで。
「なんかね……、そのプロを目にした頃って、新しい環境で新しい友人達に囲まれてる時で。あの歌詞と、孤独と隣り合わせだけど前に進もうともがいてる……粋ちゃんの そんなひたむきな演技……? 上手く言えないけど、なんというか、とても沁みたんだよね……」
ちなみに東京大学に進学したばかりのその頃は、ヴィヴィが上級生に陰口を叩かれていた時期でもあった。
「あ~、わかるわ~~」
と同意したトモエに、
「実は、そういう気持ちで選んだプロだったから、そう見て貰えてて、嬉しい……へへ」
名指しされた粋は はにかみつつ、照れ隠しの様に またカクテルに口を付けたのだった。
自分語りをしてしまった事に急にこそばゆくなったヴィヴィも、目の前のシャンパンベースのカクテルをぐびぐび飲んでごまかしていたのだが。
そんな2人を見守っていたトモエが次に発した言葉には、正直驚かされた。
「私がヴィヴィのプロで好きなのは、2022-2023シーズンのFS『LULU』なんだよね~」
黒地の浴衣袖から覗く手が、フリップの中の一曲を指示していて。
「え~~っ 意外!」
思わずそう反応したヴィヴィに、トモエは「そうかな?」と首を傾げていた。
魔性の女ルルが、さまざまな男女を誘惑しては破滅させ、その命を奪い。
最後には自らも娼婦に身を落とし、ロンドンの “切り裂きジャック” に刺殺され、
その生涯を閉じるオペラ。