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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章
オペラ自体の退廃的な内容と、独創的過ぎて頭痛を引き起こしそうな難解な曲調に、
その当時は賛否両論が巻き起こっていた、言わば問題作でもあった『LULU』
「なんかね、もう、好きとか嫌いとか、そんな次元じゃないって感じ……?」
唇が渇くのか、ぺろりと舌で濡らせたトモエが、息せき切って続ける。
「死と隣り合わせの様な鬼プロを、一心不乱に滑ってるヴィヴィが、なんか死神みたいに見えて……。ほら、あの頃黒髪だったし、黒衣装だったし? なんか、呆気に取られたっていうか……。もう、目にする度に受ける衝撃が凄くって!」
ピアノとバレエを続けているトモエは、ヴィヴィと どこか通じるものがあるかも知れない。
同じ世界に身を置く旧友の言葉に、ヴィヴィは ただ灰色の瞳を軽く瞬いただけで。
「最初に披露した、確かフランス杯……? で、演技後しばらく拍手無かったの、テレビで観てた……」
1年半も前の事を、当時のショックを想い出したかのように、くりくりの瞳を細めた粋。
あのプロは、メディアだけで無く、スケート関係者達にも「変えた方が良い」と助言されたし、
「“ミュンヘン五輪の悲劇のヒロイン” 血迷った末の選曲」――と、酷い煽りを付けた三流紙もあったと聞く。
けれど、試合を重ねる度に認知され、高い演技構成点を叩き出すようになり、
シーズンが終わる頃には “ある程度の評価” は貰えるまで成長した、謂わば玄人受けしたプロでもあった。
静かに2人の言葉に耳を傾けていたヴィヴィだったが、浴衣の肩を軽く上げると、
「私、従姉妹に「あれはだけは どうしても受け付けないわぁ~」って言われたよ~?」
そうおどけて見せ。
「うわ、ひどっ」
「あはは、正直過ぎるでしょ、そのイトコ!」
そんな大きな反応を返してくれたトモエと粋に、ヴィヴィも一緒になって “黒ヴィヴィ様” の過去を笑い飛ばしたのだった。