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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章

4月13日(土)
いつもの癖で早朝に目覚めてしまったヴィヴィは、
ほんの一時、今 自分が何処にいるのかを見失った。
羽毛布団から覗いた灰色の瞳は、未だぼんやりとしながらも、
これまでの道程を辿る度、そこに本来宿る力を取り戻していく。
スウェーデンからオックスフォードへ。
オックスフォードから愛知へ。
それから埼玉、山梨を経て、
そう、今は東京。
田園調布の真行寺邸――
しかしそこまで繋がった時、金の前髪が散らばった白い眉間には深い溝が刻まれる。
(違う……訂正。 “葉山に拉致され、今に至る”――が正しい)
枕下に忍ばせていたスマホをごそごそと探り、時刻を確認するも やはり5:00
余程の時差ボケにでもならない限り、己の体内時計は “フィギュアの為” に正確な時を刻み続ける。
いや、でも。
昨夜というか今朝、この寝室に入ったのが2時過ぎなのだから、
逆算すると就寝時間は たったの3時間弱。
しかも この寝室を出たが最後、諸悪の根源である実の兄の脅威にさらされる――と思えば、
華奢な身体はいよいよ、居心地の良いねぐらから出る事を拒み始めた。
(寝よ寝よ。二度寝なんて贅沢、たまにしか出来ないし)
薄い唇からもれるのは「ふわわ」と、寝足りなさそうな欠伸。
何せ、この寝室は施錠してあるのだ。
いくらあの匠海とはいえ、妹の安眠と安寧を脅かすのは難儀な筈。
そうだ、このままここに籠城を決め込んでもいいじゃないか。
好都合なことにバストイレ完備なのだ。
もぞもぞと寝返りを打ちながら己の名案に満足し、再び夢の世界へと旅立つべく目蓋を閉じていく。
しかし長い睫毛を誇るそれが、完全に閉じようとしたその時、
完全に弛緩しきっていた身体は、ぬくいそこで一瞬にして硬直した。
今から3時間前。
確実に施錠して寝た筈の寝室――ツインルーム。
なのに、己が横たわっているシングルベッドの隣のベッドに、
いる筈の無い人間が惰眠を貪っていた。

