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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章

それから1時間後――
ふと気付けば、1階のリビングで匠海とゲームに興じている(ようにしか見えない)自分の姿に我に返った。
「………………」
21の女と27の男が、土曜の昼日中から一体何をやっているのか。
ポーカーにチェス。
全戦全敗ながらも兄とのゲームに没頭していた己の阿呆さ加減に、我ながらげんなりする。
そして、白黒のチェス盤を親の仇の如く睨み付ける妹を、
まるで至宝の宝玉でも愛でるかの如き熱心さで、見つめてくる匠海に対しても。
「見るな」
「無理」
「減る」
「何が?」
「………………」
(「何が?」って、何かが摩耗してくんだよ、こんにゃろめ)
憮然とした表情で、手持ちの駒を動かそうとするも、
「ん? ビショップ(将棋でいう角)動かしていいのか?」
「……へ……?」
「俺、チェックメイト出来るけど?」
間抜けな声を上げるヴィヴィに、匠海は長い指先で己の駒の進路を指し示す。
「ぅえ゛!? あ、ダメダメ今のは、無しっ! 「待った」!!」
「ふ……。何回「待った」するんだか」
もう5回は「待った」を掛けている妹に苦笑する兄を、恨めし気に睨み上げれば、
黒い前髪の陰から面白そうにこちらを覗き込んでくる灰色の瞳と、
思いの外 距離が近くて。
「……――っ」
僅か20cmの距離に咄嗟に俯いたヴィヴィだったが、ジャージ素材のワンピの胸は誤魔化しきれなかった。
久方ぶりに間近に目にした、兄の必要以上に整った顔。
それは一瞬だったけれど、まるでゲームに没頭する少年の様に無邪気で。
でも「単純な妹をおちょくってやろう」という気もバレバレで、灰色の瞳が意地悪く光っていて。
勝手に甘痒く疼く胸の内。
(……って、キュンってなんだ、キュンって……っ!?)
己の不可解な動悸を誤魔化すべく、目についたルーク(将棋でいう飛車)を真横へ動かせば、
「チェックメイト」
今度こそ妹の甘い手に忠告する事無く、匠海はゲームにケリを付けてしまった。

