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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章      

『クリス、何作ってるんだ?』

 せっせと湿った砂を固めている弟に、妹を下した匠海が尋ねれば、

 集中しきっていたのか、声掛けられてやっと2人に気付いたクリスが、ゆっくりと金の頭を起こす。

『にゃんこ……』

 真っ白な両腕を砂だらけにし、50cm大の巨大ネコの創作に勤しんでいた弟に、兄が「よしよし」と小さな頭を撫でて褒め。

 そして、

『……ヴィヴィの、ため?』

 そう驚きながら確認した双子の妹に、瓜二つな顔を向けたクリスは こくりと頷いた。

 その瞬間、ヴィヴィは「もう にゃんこ、飼えなくてもいいや!」と完全に吹っ切れた。

 何故なら、

『クリスだいすき~~♡ おにいちゃまも、だぁいすきぃ~~♡』

 そうだ。

 自分には常に一緒のクリスがいて。

 そして、世界中の誰よりも大大大好きな匠海が、

 こうやって笑いかけてくれるのだから――





 遠い昔の追憶から引き戻したのは、廊下を進む足音だった。

 いつの間にそんなに熟睡してしまっていたのか。

 逞しい腕が作り出す揺り籠の中、未だ夢の残像を引きずったまま ゆっくりと顔を上げれば、

 すぐ傍にあったのは、今や27歳の大人以外の何物でも無い、凛々しい兄の顔。

「ああ、起きたか?」

 柔らかな微笑みを湛え覗き込んでくるその表情に、心底自分を愛し慈しんでくれていた昔の兄の面影が重なり。

 熱くなった目頭がじんと痺れ、瞬く間に ぼろりと零れ落ちた大粒の涙。

 頬を伝う暖かなそれは、顎まで辿り着けば冷え切ってしまうのに、

 心の内で流れ落ちる涙の奔流は どれだけ時が経過しても、その熱を下げる事は無い。

 その事実に、真っ直ぐに前を見据えていた筈の “強い己” の足場が崩れ始め、

 己の深い欲望と、向けられる執着に縋ろうとする “弱い己” が鎌首をもたげ始めていた。



 どんなに遠くに逃れ、離れようともがいても、

 過去を恨み、憎しみを募らせねばと足掻いても、

 結局、どうやったって突き放せる筈が無いのだ。

 何故なら、この男は、

 まごう事無き、



 私の一番 大切なひと――



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