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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章      

「止めないのか……?」

 そう問うてくる本人が、一番止めて欲しそうで。

 しかし懇願紛いのそれを黙殺するヴィヴィは、ただただ透明な瞳の中に男の姿を映し出す。

 どこか空虚でもあり、かと言って じっとりと湿り気を帯びた視線に耐えられなくなったのか、

 枕の脇に両腕を付いた匠海は、苦しげに切れ長の瞳を閉じ。

 そして、目の前の抗えぬ現実に向き合わんとすべく、ゆっくりと目蓋を持ち上げていく。

「……ヴィクトリア……」

 責めている様にも、縋り付いている様にも取れる兄からの眼差しに、

 油に覆われた海の如く凪いでいた心に、不穏な波紋がその輪を大きくしていくのを感じていた。

「……もう充分解ってるんだろう? 俺がどんなに酷い男かって――」

 そう吐露する匠海は、何故か己の過ちを罵倒し辞めさせて欲しそうだった。



 抗いたいのに抗えない。

 抜け出したいのに抜け出せない。



 自分の抱え込んだ闇と酷似した、兄の本心が透けて見え、

 けれど、ヴィヴィの眼差しは一瞬も反らされる事なく、鏡の様に目の前の匠海を映し出すばかり。

 恐る恐る降りて来た端正な顔が、慈悲を乞うように首筋に頭を垂れ。

 細い首筋に押し当てられた、震えを帯びた唇。

 熱く湿った吐息に、反射的にぶわりと全身が粟立つ。

 頬を擽る黒髪の感触に、そっと顔を押し付け。

 そして、兄妹しかいない静かな別荘に落ちたのは、



「おにいちゃまぁ……」



 そんな、甘さを含んだ幼女の如き声音だった。


「……――っ」

 首筋に顔を埋めていた兄が、はっと息を飲んだ様子がありありと伝わり。

 次いで鼓膜を揺らせたのは、大きめの唇の中でぐっと奥歯を喰い絞めた鈍い音。

 観念したのか、はたまた怖いもの見たさでか。

 ゆっくりと面を上げた匠海は、どろりと混濁した瞳で妹を一瞥し、

 微かに開かれていた薄紅色の唇を、己のそれで しっとりと塞ぎ。



 そして――





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