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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章
一旦 好転したと思われた空模様は、朝食を摂っている最中から また雨が降り始めていた。
だというのに2階まで吹き抜けのダイニングには、レースのカーテン越しに朝日が差し込み、
ナイフとフォークを握る細い手を、白く柔らかく照らしだす。
天気雨――いわゆる “狐の嫁入り” と称される珍しい現象にも、バスローブに隠された薄い胸は高揚もしなかったし。
それどころか、何かに化かされているような気さえした。
この場で、
匠海と2人きりの この別荘で、
2日連続 向かい合って呑気に朝食を食べているなど――
「……ご馳走様」
両手を合わせ儀礼的に呟いたヴィヴィは、まだ食事中の兄に構わず立ち上がり、
自分の食器類をキッチンの食洗機の中にセットした。
「お粗末さま。コーヒー飲むか?」
「いらない……」
静かにそう告げバスルームへと移動し、ペーストを付けた歯ブラシを口の中に放り込む。
3分間 黙々と歯磨きを続け、頃合いかと口をゆすごうとし、ふと視界に入った洗面所の鏡。
(……うわぁ……。ぶっさいく……)
久しぶりにじっくり目にした己の顔は、とことんやる気無さ気で疲れた表情を宿していた。
クマは無いけれど、なんだか眼に生気が無く。
肌は若干むくんでいるようにも、くすんでいるようにも見える。
歯ブラシを咥えたまま頬を両掌で包み、上へとリフトアップしてみれば、
当たり前だが引っ張り上げられた大きな瞳は、キツネの様に吊り上る。
「………………」
歳月は自分をどう変えただろう?
経過した年月を、兄はどう捉えているのだろう?
口をゆすぎ、タオルで口元を拭う。
匠海の恋人でいられた10代の頃とは違う自分。
パンと弾ける様な弾力のあった肌は、今はしっとりと柔らかさを増した。
そのせいか、丸かった筈の輪郭は削ぎ落とされ、若さをすり減らしている。
これを成熟と美化すべきなのか。
劣化と自嘲すべきなのか。
今まで自分の容姿に無頓着すぎたヴィヴィには、いまいち分からなかったが、
何となく己の姿を直視出来なくなり。
現実から目をそらす様に視線を落とすと、バスルームを後にした。