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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章
キッチンで調達したミネラルウォーターを手に、リビングへ移動したヴィヴィは、
3人掛けソファーの1つに腰を下ろし、未だ霧雨状の天気雨が降りそそぐ外を見つめていた。
1口 口に含んだ水は、歯磨きペーストのミント風味を変に引き立たせるだけで。
不味いそれを飲み下せば、もう不要だと言わんばかりにキャップを閉じ、ペットボトルをローテーブルに転がした。
うっすら汗をかいたそれはウォールナットの天板に微かな軌跡を描き、気怠げに制止する。
『ヴィヴィを慰めて』
ふいに鼓膜を震わせた掠れ声に、視線がテーブルから声のした方へと向く。
『ヴィヴィ、最近してないから、溜まってるの』
ぼんやりと日の光が差し込む窓辺。
貧相な裸体を隠すこともせず、ゆっくりとこちらへ歩み寄る1人の少女。
『偽善者――っ!!
ヴィヴィ、お兄ちゃんの寝室で毎週のようにセックスしてたんだよっ?
ここでも何度もしたもんっ
血の繋がった実の兄を銜え込んで、喜ばそうと腰振ってっっ
中に出されて喜んでたっ!!』
4年に1度という五輪の地で、それまでの血の滲むような鍛錬の欠片さえも出せず。
心の底から愛し、身も心も捧げてきた筈の男から、これ以上無いであろう非情な裏切りを受けた。
そんな心身ともにズタボロだった、19歳の時の自分が、
21歳の自分を憎悪を滾らせた瞳で睨み付け、力の限り喚いていた。
そんな事をしても無駄なのに。
今、この場所には、
心のこもった言葉と暖かな抱擁で、己を慰めてくれた男はいないというのに。
目の前の3人掛けソファーへ、マグカップを手に腰を下ろした匠海の気配に、
ヴィヴィは すぐ傍に立つ昔の自分から、目を逸らさず口を開く。
「私……。19の時、ここに来たわ」
「…………? ああ、俺とだろう?」
何でも無い事の様に相槌を打った兄は、こくりと咽喉を鳴らしながらコーヒーを飲み下す。