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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章
日が陰り始めた夕刻。
松濤国際SCの裏口に滑り込んだ車から降りた女は、
トランクから荷物を下ろす男に礼を口にする事無く、早々に古巣へと足を踏み入れた。
リンクサイドで我が子を見守っていた保護者達が気付き、「お帰りなさい」と掛けられる言葉に会釈しつつ、
その脚は真っ直ぐに、コーチ陣が待機している一室へと向かう。
「こ~~んに~~ちは~~っ! ん? あれ、もう こんばんわ?」
元気良く挨拶し白い歯を見せニカっと笑う元生徒に、その場にいたコーチやスタッフは一様にきょとんとし。
しかしすぐに暖かな笑顔で迎えてくれた。
「おお、やっと来たか! この不良娘めっ」
「ちょっと、年末以来じゃな~~っい! 元気だった?」
わいわい取り囲んでくる恩師達に、
「ごめんちゃ~~い」
「超・超元気!」
「これお土産~~❤」
そう賑やかに返しながらも、その頭の片隅には、
別荘からここに戻るまでの車中、一言も無駄口を叩かずハンドルを握っていた兄の横顔がこびり付いていた。
翌日――4月15日(月)
早朝からの自主練を終え松濤の屋敷へ戻ったヴィヴィは、昼寝したり楽器を触ったりして過ごしていた。
振付師の宮田から新プロの振り付けを受けていたクリスは、夕刻に帰宅すると、
表面上はリラックスし楽しそうに振る舞う妹に、双子の兄はそれが から元気だと気付いてか、
ずっと傍に寄り添っていてくれた。
19時を回ろうとする頃。
屋敷の玄関には愛らしい声が響き渡った。
「びびっ!」
1歳6ヶ月の甥っ子が、両手を使い数段の階段を「うんしょ、うんしょ」と登りきり。
テトテトという効果音が相応しい足取りで、叔母であるヴィヴィの元へ寄って来る姿は、
やはり可愛いの一言に尽きた。