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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章
『知らなかった……?』
『ああ。現代音楽かつ邦楽で新しい試みだったし、緊張感のある曲はヴィヴィに合うと思って、安易にOKしたんだが――』
そこまで言って黒縁眼鏡を外した宮田は、Tシャツの裾でレンズを拭いながら深い吐息を零す。
『だが、小説を読んで気が変わった。悪いが この曲は振付けられない。理由は「LULU」を断ったのと同じだ』
五輪の翌シーズンに依頼したFSの曲名を持ち出した宮田に、小さな顔がすっと強張る。
2年前、何人もの振付師から断られた「LULU」。
その中でも宮田は、引き受けられない理由を明確に口にしていた。
「どうして自分を傷付ける様なことをする?
何故もっと自分を大事にしない?
俺は自傷行為の幇助(ほうじょ)なんてする気は無い」
ふるふると金の頭を振るヴィヴィは『ち、違います。誤解です』と、宮田を思い留まらせようとしたが。
『悪い、無理だ。他の曲に変更するか、若しくは振付師を変更してくれ』
全く聞く耳を持とうとしない宮田は預かっていたCDを押し付けると、クリスの振り付けへと戻って行った。
『……そんな……』
リンクサイドに取り残されたヴィヴィは、あまりの事に頭が真っ白になり、
ふらふらと観客席の1つに腰を下ろした。
昨シーズンの最終戦である国別対抗戦を終えた翌日からTV企画の旅行という、慌ただしい日常を送っていた自分は、
今から4日前、関西に本拠地を置く宮田に、Skypeで振付の曲を伝えていた。
振付の依頼自体はずいぶん前に了承を貰えていたし、ヴィヴィも ぎりぎりまで選曲を悩んでいたから、
そんな余裕の無いスケジュールになってしまった。
そこは自分の非を認める。
けれど宮田には、昨日から明日までクリスのFSを振付し、
明後日から3日間で自分のFSをお願いしているのに、今更そんな事を言われても。