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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章        

 氷上では魂の籠った滑りで魅了しながらも、氷を降りれば天真爛漫と謳われる、21歳に見えぬ幼さを残した女。

 そんな人間が発したとは思えぬ提案に男は絶句していたが、

 ディナーの席でのドロドロした思念に捕らわれたヴィヴィは、退路を与えず更に追い詰めていく。

「だってお兄ちゃん “私にしか勃たない” んだもんね?」

 皮肉を交えた留めの言葉。

 吐いた途端、一瞬ふと心が軽くなった様な気もしたが。

 それは気のせいだったようだ。

 “唯一愛している女” と嘯いている妹に、言葉で翻弄された兄は憔悴しきっており。

 疲労を滲ませながら閉じられた目蓋と、次いで発された言葉は微かに震えを帯びていた。

「……見せたくない」

「え?」

「お前が俺に抱かれてる姿……。誰にも見せたくないよ……」

「………………」

 予想外の返事に、言葉を失ったヴィヴィは二の句を告げれなかった。

 妹を腰の上に乗せたまま、ぐったりとベッドヘッドへ寄り掛かる逞しい身体は、

 いつもは漲っている気力を削ぎ落とされ、弛緩しており。

 薄闇に浮かぶ色素の薄い肌は、血の気を失って見えた。



 自分の言動ひとつで

 こんなにも相手を痛めつけられるものなのか――?



 今の今まで、他人に明確な悪意を向けた事の無かった、とことん温室育ちのヴィヴィは、

 八つ当たりとしか思えぬ己の行いに、薄ら開けたままだった唇をきつく固く引き結んだ。



――――



『駄目だよ、ヴィヴィ。この曲は、駄目だ』

 午前中の自主練を終え、リンクを後にしようとした自分を呼び止めたのは、

 振付師・宮田のそんな言葉だった。

『え? でも、先生……。先週は、そんなこと……』

 いきなり否定されポカンとする生徒に、振付師はバツの悪そうな表情を浮かべながら頭を掻く。

『悪い。振付依頼を受けた時は、正直、知らなかったんだ』

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