この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章
「お前達はハイハイする前から氷の上にいたな~~。冷たい筈なのにはしゃいで。氷から降ろそうとするとグズって大変だった」
弟と妹を交互に見比べ、そう昔を懐かしむ匠海。
その目の前「御馳走様でした」と両手を合わせ、とっとと席を立とうとした、その時。
「あ、ここにいたのね? 私、間違えてスタッフルームに行っちゃったわ」
明るい声と共に現れた瞳子と、ばっちりと目が合ってしまった。
「こんばんわ、瞳子さん。ゆっくりしていって下さいね」
社交辞令以外の何物でもない挨拶と共に、義姉と入れ違いにカフェを後にし。
キャッキャと無邪気にはしゃぐ甥の方へと、向かおうとした、が――
「きゃ……っ!?」
すぐ傍から聞こえた小さな悲鳴に ふと背後を振り返れば、僅か2cm程の段差に躓いたらしい瞳子の身体が傾いで。
「瞳子!」
灰色の瞳には それらたった1秒ほどの出来事が、
まるで映画やドラマのワンシーンの様に、スローモーションで映し出されていた。
咄嗟に両腕を差し出し、妻の肩と腕を支えた男の姿。
大きな掌に包み込まれた妊婦は、一瞬 置いて へなへなと床へ両膝を着いてしまった。
「危ないな、転んだらシャレにならないぞ?」
「び、びっくりしたわ……。ごめんなさいね、お腹のせいで足元見にくくて……」
若干 咎める様な響きを孕んだ匠海の言葉に、両腕を解放された瞳子は今更ながら大きな腹部を大事そうに庇う。
新しい命を宿した腹はグラマーな義姉でさえ、もう胸より張り出しているのだ。
足元が不用心になるのは当然の事で、それを助ける夫は正義以外の何ものでも無い。
そう、ちゃんと解かってはいるのに。
まるで極寒の地に立たされているかの如く、足許から這い上がってきた震え。
「………………」
指先が痺れる程冷え切った己を癒す為だけに、踵を返したヴィヴィが向かったのはリンクだった。