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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章        

「私は、本当に不器用なんです。幸せでもないのに幸福を演じられないし、その時の自分の状況や感情に沿ったプロしか演じられない……」

 しかし自分に残された時間も僅かで、立ち止まる事さえ出来ず、前に進むしか無くて。

 そして “3年前の借り” を返すためにも、五輪プレシーズンの今季は絶対に失敗は許されない。

「自分でも、言動に “矛盾” を感じてるってこと?」

 静かに寄越されたその問いに、金色の頭はこくりと首肯した。


―――


『テーマは “人間のもつ複雑性”……? ですかね』 

 今から5日前。

 Skype回線越しに微かに首を傾げたヴィヴィは、その曲への思い入れを語っていた。

『ん~~例えば、肉食獣は狩りをする際に「シマウマ可哀そうだけど、お腹空いてるし」なんて罪悪感も無いでしょうけど、人間は「牛殺すのは残酷!」と言いながらも、A5ランクの和牛を見れば歓喜して食しますよね?』

『矛盾してるよね』

 表情豊かに身振り手振りも交えて訴えてくる生徒に、宮田は若干 苦笑しながらもそう相槌を打つ。

『そう、矛盾してるんですよ』

 勢い付いたヴィヴィが、カメラに身を乗り出して続ける。

『人間以外の動物が持ちえない “感情” を持っておきながら、不用意に他を傷付けたり。かと思えば、困った人を放って置けず、手を差し伸べる優しさもあったり。そういう動物とは違った人間だけに与えられた尊さ――? そういうものを取り上げたら面白いんじゃないかと』

 細く高いそれに似合わず鼻息荒く力説して見せれば、回線越しの相手は何故か おののくそぶりをしていて。

『うわぁ……。あの甘ったれで世間知らずだったヴィヴィが、まるでいっぱしの哲学者の様な言動を……』

『へ? そ、そうですか?』

 確かに現在履修しているのはPPE(哲学、政治及び経済学)だが、

 そうでなくとも多くの人間が、ヒトという生き物の心理について少なからず考察したことはあると思う。

『なるほどね。人間の持つ複雑性……矛盾……多様性……。面白そうだな』

 感心した様に両腕を組み。

 少しずつ大人になりつつある生徒と、一緒に新プロを創り上げていく過程を楽しんで見せていた、あの日の宮田。


―――
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