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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章
4月17日(水)
早朝からの朝練と、宮田による午前中の振付を終え、一旦 篠宮邸に帰宅し。
クリスとランチを共にしたヴィヴィが、3階にある私室に足を踏み入れた途端、まるで頃合いを見計らったかの様に電話が鳴った。
スマホの着信音とは違う固定電話のそれは、開け放たれた書斎から漏れ聞こえており、
主よりも先に足を踏み入れた執事・五十嵐は、電話相手に待たせた詫びを入れながらこちらを振り返った。
「ええ、お戻りです。お待ち下さいませ――」
白手袋を纏った手でコードレスの受話器を差し出す執事に、大きな瞳を きょとんとさせたヴィヴィは「誰?」と問うたが、
告げられた相手の名に、灰色のそれは一瞬だけ翳りを濃くした。
礼を言い受話器を預かれば、心得た使用人は目礼して書斎の扉を閉め立ち去る。
お仕着せの背中を見送ったヴィヴィは、革張りのチェアにボスンと腰を落とすと、物凄く不愛想に第一声を発した。
「…………何?」
『昨夜、どこに行ってた?』
「……は……?」
時候の挨拶も無ければ「今、時間いいか?」等の確認も無い。
単刀直入すぎる電話相手――匠海の問いに、更に剣呑な声が零れる。
『昨日の夜、何度も部屋に電話したが、出なかっただろう』
受話器越しに届くのは、苛立ちとも焦燥とも取れる声色。
どうしてわざわざ、私室の電話に?
内心首をひねったヴィヴィだったが、その理由はすぐに思い当たる。
自分のスマホは着信拒否しているから、兄からコンタクトを取る手段は、直接来訪するか “これ” しかないのだ。