この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章
「どこでもいいじゃない。関係無いでしょ」
『うら若い妹が深夜になっても帰宅しなければ、心配するのは当たり前だろう?』
「はっ! 今更 お兄ちゃん面しないで」
『俺は兄だ』
「…………うざ」
げんなりと酷い突っ込みを入れた妹にも、兄はひるむ事は無くて。
『ヴィヴィ……。ヴィクトリアは目を離した隙に、ふわふわどこかへ飛んで行ってしまいそうで、怖いんだよ……』
「………………」
いつもより強張った兄の声に怯えを感じ取ったヴィヴィの脳裏に、昨日の記憶がふと過ぎった。
つまずいた妻を咄嗟に庇った両手。
心配そうに覗き込む視線。
あの数秒の間。
匠海の瞳の中に、自分の姿は無かった。
兄は妹である自分から告白されて以降、
良くも悪くも脇目も振らず、一心にその視線を妹へと注いでいた。
恋人期間はもちろん、他人と結婚してからも、愛人関係に至ってからも。
そして、破局した今でも。
ぞっとする。
あの切れ長の瞳が自分に向けられなくなる時が、近い将来必ず来る。
自分以外の女――それは瞳子以外かも知れぬが――
その女を憂いをはらんだ灰色の瞳が、熱っぽく追い掛け回す。
そんな男を “実の妹という立場” で見続けなければならない。
今までに味わった事の無い状況に陥った時のことを考えるだけで、恐怖で身体の芯から震えが沸き起こってくる。
『お前は本当に愛らしくて、器量も良くて……』
追憶から引き戻した匠海の声。
『誰からも好かれて、周りの皆から愛されて……』
いつも我が物顔で振舞っていた昔の兄からは想像も出来ない、弱さを曝け出した言葉。
『いつか……、いつか俺の腕をすり抜けて、どこかの男の檻に閉じ込められてしまうんじゃないかと』
ふと、こんな内容の電話を わざわざ会社の昼休みにかけている匠海の姿を想像し。
らしくない余裕を欠いたその言動に、薄い唇から漏れたのは盛大な溜息。
「じゃあ、しっかり捕まえてれば――?」
そう言い捨てたヴィヴィは、問答無用で通話を切った。