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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章
小さな頭の中でウンウン唸り始めたヴィヴィだったが、その悩みは次にクリスが発した言葉で吹っ飛んだ。
「そんな事を、あなた方に強制される覚えはありません!」
(ふぇ……? ク、クリス……!?)
ぽかんと隣を振り仰ぐヴィヴィの目の前、珍しく感情を露わにしたクリスが椅子から立ち上がっていた。
「僕達は日本を選択するという届を出す――これだけの誠意を見せているのに、それ以上を要求されるとは心外です」
面と向かって相手の要求を突っぱねたクリスに、お偉方は度肝を抜かれた様子で。
そして次第にアタフタし始めた。
それもその筈。
傍目から見ても「ヴィクトリア選手は日本びいきだし、100%日本国籍を選択するだろう」と判り、何の疑問も持たれていなかったが。
一方のクリスは、昨シーズンのFSに『イングランド狂詩曲』を選んだ時点で危機感を持たれていた。
イングランド民謡をモチーフに編曲された曲に、英国の “モリス・ダンス” の民族衣装を模した衣装。
そして、国際試合のバックヤードで度々目撃されていた、英国国立スケート協会の理事達との密会とも取れる様子。
よって「もしかしたらクリス選手は、英国籍を選択するかも……」そんな憶測が、日英両国で囁かれていたのだ。
結局、一歩も引かぬクリスの主張に、理事の面々は当初の要求を取り下げるしか無く。
「では、30分後に、会見の席で――」
そう言い残して彼らが退室した後には、微妙な空気が漂う事になった。
「さて、じゃあ2人とも。ちゃっちゃと書いちゃおうか~~」
空気を換えようと おどけた物言いで国籍選択届を配ってくれた牧野。
「は~~い」と明るい声で受け取ったヴィヴィは、所定の箇所に記入を始めた。
隣のクリスも渋々といった様子で、取り組み始めたのだが。
それを隣から覗き込んだ妹は、会見用に薄くメイクを施した顔を にやあと緩める。