この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第15章
「……はいはい……」と戯言を受け流すヴィヴィを横目に、目の前の王子は集まってくれた皆と他愛もない会話に興じ始めた。
並びの美しい白い歯が、南仏特有の強い日差しに輝く。
綺麗に焼けた大きな手が、白いテーブルクロスの上で悠然と組まれる。
「………………」
今一度、目の前の人物をヴィヴィは見据えた。
オックスフォードでは気づかなかった。
海からの日差しが映える人。
潮風の滲む、からりとした空気が肌に合う人。
一国を背負う立場にあるのに、それを物ともせずに自分と今を愉しんでいる人。
臆する事無く己の思いを口にできる人。
何もかもが自分とは対極にある人。
よって絶対に、互いの人生が交差するはずの無い人――。
『お兄ちゃんが好きっ お兄ちゃんしかいらないっ!
ヴィヴィ、誰とも一生結婚しないし、抱かれもしないっ!』
『結婚はするよ。産まれてくる子供には、ちゃんとした両親が必要だから』
結婚――という単語に脳裏を過ぎるのが、そんな忌まわしい記憶ばかりの女に求婚するなど、フィリップにとっては人生の汚点にしかならないのに。
「………………」
自分の頭蓋骨を開いて、彼に脳味噌とその記憶を見せてあげたい。
「セフレが出来た」と暴露しても自分に構うのを辞めない相手に、戸惑いと諦めを含んだ嘆息を零していると。
「殿下っ こんなところで油売ってたんですか!? もう皇族の皆様は前室でお待ちだといいますのに!」
オックスフォードでもフィリップに付いている従者が、血相を変えて現れた。
「前室って?」と首を傾げるダリルに、居住まいを正した従者が答える。
「本日はモニャコ大公主催のパーティーがございまして、ドライバーやチーム関係者をはじめ、世界中のセレブリティが参加されます。確かお三方様にも招待状をお贈りしたかと」
レースウィークの休息日である今日は、先ほどタクシーで下された大公宮殿で大事な催しがあるというのに、どうやら この皇太子殿はすっぽかしてきたらしい。
あのルネッサンス様式の宮殿の中は今頃、ハチの巣を突いたパニック状態なんじゃなかろうか。
「あら、もうそんな時間なのネ! 急いで準備しなきゃン♡」
そう張り切って席を立ったダリルに対し、クリスは「僕、興味ないから……」とひたすら地図を読み込んでいる。