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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第15章     

「……はいはい……」と戯言を受け流すヴィヴィを横目に、目の前の王子は集まってくれた皆と他愛もない会話に興じ始めた。

並びの美しい白い歯が、南仏特有の強い日差しに輝く。

綺麗に焼けた大きな手が、白いテーブルクロスの上で悠然と組まれる。

「………………」

今一度、目の前の人物をヴィヴィは見据えた。

オックスフォードでは気づかなかった。

海からの日差しが映える人。

潮風の滲む、からりとした空気が肌に合う人。

一国を背負う立場にあるのに、それを物ともせずに自分と今を愉しんでいる人。

臆する事無く己の思いを口にできる人。

何もかもが自分とは対極にある人。

よって絶対に、互いの人生が交差するはずの無い人――。



『お兄ちゃんが好きっ お兄ちゃんしかいらないっ!
 ヴィヴィ、誰とも一生結婚しないし、抱かれもしないっ!』


『結婚はするよ。産まれてくる子供には、ちゃんとした両親が必要だから』



結婚――という単語に脳裏を過ぎるのが、そんな忌まわしい記憶ばかりの女に求婚するなど、フィリップにとっては人生の汚点にしかならないのに。

「………………」

自分の頭蓋骨を開いて、彼に脳味噌とその記憶を見せてあげたい。

「セフレが出来た」と暴露しても自分に構うのを辞めない相手に、戸惑いと諦めを含んだ嘆息を零していると。

「殿下っ こんなところで油売ってたんですか!? もう皇族の皆様は前室でお待ちだといいますのに!」

オックスフォードでもフィリップに付いている従者が、血相を変えて現れた。

「前室って?」と首を傾げるダリルに、居住まいを正した従者が答える。

「本日はモニャコ大公主催のパーティーがございまして、ドライバーやチーム関係者をはじめ、世界中のセレブリティが参加されます。確かお三方様にも招待状をお贈りしたかと」

レースウィークの休息日である今日は、先ほどタクシーで下された大公宮殿で大事な催しがあるというのに、どうやら この皇太子殿はすっぽかしてきたらしい。

あのルネッサンス様式の宮殿の中は今頃、ハチの巣を突いたパニック状態なんじゃなかろうか。

「あら、もうそんな時間なのネ! 急いで準備しなきゃン♡」

そう張り切って席を立ったダリルに対し、クリスは「僕、興味ないから……」とひたすら地図を読み込んでいる。

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