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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
ヴィヴィを乗せたタクシーが、エディンバラ空港の敷地内へと滑り込んだ頃。
バックの中のスマホが振動しているのに気付いたヴィヴィは、その着信相手を確認し、
一瞬、電話に出るのを躊躇った。
が、透明な強化プラスチック越し、ルームミラーに映った運転手とちらりと視線が合い、
何だか居た堪れなくなり、電話に出てしまった。
『ヴィヴィ、今、どこ……?』
いつも通りの落ち着いた声音は、双子の兄のもので。
「……く、空港……」
恐るおそる答えたのとタイミングを計った様に、タクシーは車寄せへと滑り込み。
左肩と頭でスマホを挟んだまま、財布からクレジットカードを取出し、決済して貰う。
『ふうん……。何時の飛行機……?』
「え……?」
『だから、何時にここを離れるの……?』
そう尋ね直したクリスが、「ふわわ……」と眠そうな欠伸を零したのが、すぐ傍に聞こえた気がした。
「……15:35……」
『さすがに、間に合わないな……。でも2本後のには、乗れる……』
決済を済ませた運転手がトランクを開けてくれ、ヴィヴィはバックを掴んで外へと出ながら聞き返す。
「え……? クリスも帰るの?」
『だって今、リーヴもダリルも、いないよ……?』
「……知ってる……」
バッグを肩から下げ、また肩と頭でスマホを挟んだヴィヴィは、運転手が下してくれたスーツケースを受け取った。
『ホールで、一緒にディナー、食べよう……?』
双子の属するカレッジのウォルフソン・ホール(食堂)では、ミシュランの星持ちレストランで働いていたシェフが、通常のディナーからベジタリアン専用のものまで、希望に応じてくれていた。
ヴィヴィの料理の腕は既知の通りだが、双子のクリスもそこは似たらしく……。
なので、執事のリーヴが休日の時は、同居人のダリルが作るか、ウォルフソン・ホールへと食べに行っていた。
「……ん……」
『じゃあ、また後で……』
そう言って、あっさり電話を切ろうとする相手に、
「ク、クリス……」
呼び止めたその声は、弱々しくて。
『ん……?』
「ごめん、なさい……」
あと、2泊3日。
今日と明日さえ我慢すれば、両親とも匠海夫婦とも、笑顔で別れられたであろうに。