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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
結局 自分を抑え切れずに、家族の輪から逃げ出してしまった。
その謝罪を口にしたヴィヴィに、電話の向こう側で ふっと息が吐き出される。
『……ヴィヴィはよく、頑張ったよ……。じゃあね……』
今度こそ途切れた通話に、スマホをバックに戻し。
ころんとしたフォルムのブラックキャブ(黒タク)に分かれを告げ、
ヴィヴィは迷いの無い足取りで、1階の国内線ロビーへと入っていった。
オックスフォード・バスにて、80分掛けてカレッジに辿り着いた頃には、もう19時を回っていた。
大きなスーツケースに、ボストンバック、ショルダーバックと大荷物のヴィヴィは、
夜だというのに昼の如き日の高さの中、ゴロゴロ音を立てながら帰途を辿る。
同居人のダリルは、サマーバケーションで実家のマンチェスターに戻っていて。
執事のリーヴは、屋敷に誰も居ない為、双子がロンドンへと向かった翌日から明日迄、休みを取っている。
よって誰も居ない屋敷に徒歩で帰り着き、ショルダーバックから取り出した鍵で青い玄関扉を開錠すると、
5日ぶりに足を踏み入れた我が家に、ほっと息を付いた。
やっと自分の “日常” に戻れる。
スケートをしてタンゴを習って、
10月から始まる学部留学に向けて準備をして。
カレッジの皆と、残りの夏を満喫して。
平凡で同じ事の繰り返しの毎日。
それが、今の自分には一番の安らぎとなる。
「さって、と……」
気持ちを切り替えるように、明るい声を出したヴィヴィ。
階上の私室に荷物を持って上がらねば。
まず、ボストンバックとショルダーバックを持ったヴィヴィは、木の温もり溢れる階段を登っていく。
2階の窓から降り注ぐ日の明るさは、19時を過ぎても夕焼けの色も滲ませず。
吹き抜けに吊られた小さなシャンデリアを煌めかす。
(とっとと荷解きして、クリスが戻る前にモップかけて……。ん~、お洗濯は、明日にしちゃおう……)
そう算段しながら、私室のドアを開け。
そして、
目の前で広がるどこか異質な光景に、ヴィヴィはただただ立ち尽くした。