この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第16章
自分と同じく産れた時からその世界に身を置いていた鈴の思考は、ヴィヴィにとってとても身近だった。
「人の為に生きる、誰かに貢献する、社会の役に立つということが、こんなにも自分の人生を豊かにしてくれるのだな、ということは、日本舞踊をしていなかったら気づかなかったかな?」
花柳流の機関紙に載せる対談で、鈴はそう喜びを語っていた。
「そうですよね。私もフィギュアをしていなかったら、自分から何かを発信したり、その反応を受け止めたりする経験も無かっただろうなと思います」
「作品やお役の意味、なぜ上演しなければならないか。いま日本で忘れかけられている色んな大切なこと、和の心、忠義、恩、そういうものが日本舞踊の作品で伝わるはず。けれど、言葉が難しかったり、長くて眠ってしまったり、せっかくのチャンスがうまく発揮できていないの」
日舞を含む日本古来の芸術に警鐘を鳴らす鈴に、ヴィヴィも思うところがあった。
「フィギュアも、今は持て囃されているけれど、いずれ下火になる事もあるはず」
「古臭い、敷居が高い、年寄りばかり、そんな誤解を引きずったままではこの先 何百年も持たないわ。だから……、こう言うと格好つけていると思われるかも知れないけれど……、自分の人生を使って「日本舞踊の歯車を磨く行為」をしていかなければと思ってる」
切々と彼女の肩に乗ったものを語る鈴に、ヴィヴィもシニアに上がる際に母から言われた言葉を思い出し。
そして、自分が更に高難度のエレメンツや完成度、はたまた表現を究めていくことで、己も「フィギュアの歯車を磨き」その更なる発展に貢献出来るのだという思いを強くした。
自分の考えをしっかりと持ち、周りに流されず、思いを行動に移せる彼女に、心の奥底から「自分もこうありたい」と、鈴を慕う気持ちが強く芽生えた。
煎茶が置かれたテーブルを挟み、にっこりと微笑みあう二人。
お友達――は、年上の彼女におこがましいかも知れないけれど、ぜひこれからもこの素敵な女性とお付き合いさせて貰いたい。
そう思い対談終了後、スマホを取り出し連絡先をお伝えしようとした、その時。
「あなたのお姉さんもね、そう、考えてらっしゃると思うわ?」
隙無く着込んだ着物の襟元を整えつつ立ち上がった鈴に、咄嗟には何の事か分からなかったヴィヴィが「え?」と首を傾げる。