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どこまでも玩具
第10章 晴らされた執念
「新しい夫はどうだ? 気をつけたほうがいい。目を離すと櫻に悪戯を仕掛けているからな。向こうの連れ子だろう?」
「なにを云ってるの?」
強気だが、目が泳いでいる。
それを見て男は更に饒舌になる。
「哲をどうやって失ったか、よく思い出せ。また同じ結果になるぞ。今の旦那は体の相性が良いんだろ? 腹の底で何を考えているかも見定ねないまま結婚するとは……愚かな女だよ」
「関係ないでしょ。それに、あなたに何がわかるの」
声が震えている。
男は満面の笑みを浮かべた。
まるで、その言葉を待っていたかのように。
「関係ない。あぁ、そうだ。お前はもう赤の他人だ。だから早く帰れ。ここから消えろ。哲はもうお前の子じゃない」
「なにを……」
「そうだろう? 今自分で言ったじゃないか。関係ないでしょってな」
俺は萎縮しながら類沢を見た。
口を出せない俺達の代わりにと。
だが、彼は涼しい顔で黙っていた。
「哲に会わせて」
襟梛が門に手をかける。
ガチャガチャ。
静かな街に響く。
「会わせてよっ。それは離婚の時に約束したでしょう?」
「哲が拒否しなければな」
襟梛が固まる。
「……哲が?」
男は腕を広げて玄関を示す。
「こんなに開け放しているんだ。哲も出たければ自分で来るだろうよ」
そのとおりだ。
しかし、俺と金原は別のことを思っていた。
今、コイツはここにアカがいることを自白したと。
そしてアカが出て来ないということは、拘束されているのだと。
アカがだよ?
あれほど父親を恐れていたアカが、なんで今逃げてこないんだ。
理由は一つ。
「哲はどこにいるの?」
「二階の自分の部屋だよ」
「なんで哲の部屋があるの?」
「ここが家だからな。お前と違って、親権を持っている。部屋を用意するのも義務だろう?」
「あの子が望んだの?」
そんなわけないだろう。
「あの日と同じだ」
そんなわけがないだろう。
男が扉を締めようとする。
ヤバい。
多分、もう二度と開けてはくれないだろう。
引き止めなきゃ。
なんて言おう。
「なら、息子さんの御様子を見させて頂けませんか」
口を開いたのは類沢だった。
初めて存在に気づいたように、男が目線を送る。
「申し遅れました。私、市役所の児童相談部に勤める類沢と申します」