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どこまでも玩具
第10章 晴らされた執念
誰もが立ち尽くす中、類沢はいかにも公務員が持っていそうな鞄を提げ、前に出た。
「先日こちらの紅乃木襟梛様から御依頼を頂きまして、御子息である哲様の様子を知りたいとのことでしてね」
チラと襟梛を見ると、彼女も察して頷いた。
「児童相談部? 虐待調査って奴か。失礼な方だな」
男は一歩も入れないと云うように扉を締めて仁王立ちする。
「まさか。ただ、病院から無断外出の届け出と、哲様の学校から無連絡欠席の苦情が来てましてね。これらを考慮した上で、調査に来た訳ですが」
類沢は反応を見るため区切った。
俺はドキドキしていた。
これは、まるで演劇。
この嘘の真実をアイツに信じ込まさせなければ、アカの元には行けない。
全ては類沢にかかっている。
「体は好調だからな。いつ退院しようが患者の自由じゃないか」
「そうは言われましても、我々は貴方様がどのような症状をお持ちかも存じ上げておりませんので」
鞄から資料を取り出す。
盗み見するが、病院関係の資料にしか見えない。
わざわざ作ってきたのか。
金原も目を見開いている。
「なんだ、それは」
「貴方様のカルテと診断書です。退院は二カ月後と明記されています」
「関係ない」
「では、一つ確認させて下さい」
「なんだ」
男は類沢の淡々とした口調が苦手のようだ。
右手を頬に当て、中指でトントンと苛ただしげ叩いている。
それを見て類沢は微笑んだ。
「入院から今までの経緯を教えて頂けませんか」
「なんでだ」
「それさえ確認出来れば、後日改めて出直して来ますので」
これも嘘だろう。
俺は直感した。
この質問こそが切り札なのだと。
男は暫く黙った。
「入院は去年だ。手術を三回受けた。それから」
「手術と言いますと?」
「あぁ、刺しき…」
刺し傷。
そう言いかけた男が固まる。
それを類沢は見逃さなかった。
「ほぉ。珍しい怪我ですね。さぞかし大変なことがあったのでしょう。通り魔ですか」
襟梛も気づいた。
金原も。
「ただの事故だ」
「おかしいですね」
類沢は鞄から新聞を取り出した。
四つ折りにした記事を見せつける。
「確か、貴方の御子息による刺し傷だと、裁判で判決されていますが」
「な…」
男の誤算は二つ。
第三者の事件を知る者の登場。
それが類沢であること。