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どこまでも玩具
第10章 晴らされた執念

 男は手が震えているのを感じた。
 カタカタと頬に当たる指が。
 初対面の男に。
 何故、こうもビクつくのか。
 理解が出来ない。
 「……としますとですね、貴方は自分を刺した犯人を家に連れてきたということになります。失礼ですが、こう言われても仕方がありませんよ」
 襟梛を一瞥する。
 「息子に会わせろ、と」
 沈黙が流れる。
 完璧な論述だ。
 否定しようがない。
 感情で責めてダメだった。
 なら、この展開はどう動くのか。
 固唾を呑む。
 「哲は……」
 男が頬に爪を立てる。
 ゆっくりと。
 引っ掻く。
 「誓ったんだ」
 冷や汗が伝う。
 俺はいつの間にか寒さに鳥肌が立っていた。
 「二人で暮らしていくって」
 男は、純粋に、笑みを浮かべた。
 「哲はずっと待っていたんだよ。父親を。だから、家も用意した。何一つ不自由じゃない、家族に戻れる。過去のように」
 「それは、いつの話でしょうね」
 男が類沢を睨む。
 「少なくとも、貴方を刺した後とは思えませんが」
 「哲はここで幸せに暮らすんだ。他人は消えてくれないか」
 「ひょっとして、これで済むとでも思っていらっしゃるんですか?」
 声のトーンが変わった。
 俺にはわかる。
 豹変が。
 表情は変わらない。
 変わったのは、眼。
 あの真っ暗な部屋で見た、狂気の眼。
 「話し合いで解決しようと努めているつもりですが……そちらがそのような態度でしたら」
 ガチャン。
 門を開く、冷たい手。
 男が後ずさる。

 「不本意ながら、強硬手段に出させて貰おうかなぁ」

 ゆったりとした語尾が、相手を威圧する。
 襟梛ですら青ざめていた。
 入ってくるとは思わなかったんだろう。
 男はわかりやすく動揺した。
 「市の一般職員にそんな権利はないだろう!」
 「残念ながら、あるんですよ」
 敬語に戻ったものの、もう遠慮はそこにない。
 俺達も続く。
 家に入れば、こちらのもの。
 「扉を開けてくれますよね」
 鍵を手にした男に尋ねる。
 類沢の目は、笑っていない。
 「……好きにしろ」
 男は鍵を開けた。
 そして、扉を開くと、不敵に笑った。
 金原とアイコンタクトする。
 類沢の横をすりぬけ、家の中に飛び込んだ。
 「アカ!」
 「どこにいるー!」
 二階に走る。

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