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どこまでも玩具
第10章 晴らされた執念

 ガリガリ。
 段々と柱が削られる。
 だが、まだ半分にもいかない。
 ナイフの刃が零れる。
 くそ。
 サバイバルナイフでも買えば良かった。
 苛々しながらも一点に集中して根気よく削り続ける。
 指の付け根が腫れ上がり、爪先は血が滲んだ。
 歯を食いしばった所為で顎も痛い。
 腕はスライドし続け麻痺している。
 だが、それがなんだろう。
 おれは夢中だった。
 これで逃げられる。
 逃げられる。
 柱が軋む。
 あと少し。
 ギシ。
 キシ。
 ガリ。
 ナイフが滑り、勢いのまま床に突き刺さった。
 抜こうとするが、手汗で滑りうまくいかない。
 仕方ない。
 二本目を手に取る。
 これで最後。
 成功させなければ。
 フーッと息を吐いて刃を押し当てる。
 イケる。
 切れ味が違う。
 ガタン。
 ナイフが貫通し、柱がズレた。
 すぐに下の部分を取り外し、鎖を抜き取った。
 ジャラン。
 引きつっていた体が解放された気がした。
 油断も安心もしていられない。

 おれは部屋を横切り、窓から外を見た。
 車庫に車はない。
 父はまだ帰っていない。
 明るい。
 朝か。
 時間の感覚もない。
 時計を探したが、なかった。
 鞄の場所に戻り携帯を取り出す。
 電池はゼロだった。
 それはそうだろう。
 あとは、服だ。
 制服は見る影もなくズタズタになっている。
 クローゼットを開いて、おれは言葉を失った。
 沢山の服が掛かっている。
 どう見ても、父の物には見えない。
 おれの世代の服。
 買い揃えたのか。
 部屋を見渡す。
 気づかなかったが、隅には勉強机もある。
 棚には遊び道具が仕舞われている。
 ゾクッとした。
 まるで、おれのための部屋。
 ―家族に戻るんだ―
 あれは、そのとおりの言葉だったのだ。
 ここを、おれの居場所にして。
 吐き気がする。
 冗談じゃない。
 ふざけるな。
 おれは適当に服を着ると、赤い髪をなでつけた。
 ここはおれの場所じゃない。
 あのアパートに戻るんだ。
 こんな場所、家じゃない。
 バタンとクローゼットを閉める。
 帰りたい。
 帰るんだ。
 鞄を肩にかけ、また窓を確認する。
 ハッとした。
 丁度車が入ってきたのだ。
 まずい。
 床に刺さったナイフを抜く。
 武器は多いにこしたことはない。
 あれ。
 車が、また来た。
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