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どこまでも玩具
第10章 晴らされた執念
「ここに哲を閉じ込めて? 昔みたいにメチャクチャにして、自分よがりな愛情で縛り付けて苦しめる! そんなあなたには何も言われたくないし、なにも云う権利もないわ!」
「哲を忘れて幸せにすがる女に言われたくないな」
ドスッ。
襟梛が横振りで壁を刺した。
柄まで刺さっている。
壁には小さく亀裂が走った。
「……お腹の子に障るよ」
金原が呟く。
襟梛はハッとしたように、包丁から手を離した。
「わた……し…」
「図星じゃないか」
男の手首が蒼白になっている。
類沢はクイと捻り、素早くナイフを奪った。
だが、痛がる様子はない。
ナイフにすら目を向けない。
「否定もしないのか、襟梛」
名前を呼ばれてびくりとする。
拒絶するように。
今まで張っていたものが切れたように。
「やっぱりおれだけだ」
男の表情が和らぐ。
「哲を愛してるのは、おれだけなんだよ」
「いいえ」
全員がドアに目を向けた。
「それは違いますよ」
類沢の口が開く。
「……瑞希」
痛い。
そんな言葉で片付けようとした時には倒れていた。
全身に等値の痛みが駆け巡る。
指先が、心臓が、脳が、焼ける。
「瑞希!」
金原の声がして、類沢の声もした。
それから意識を失った。
アカの家から暗闇に落ちていく。
でも、落ちる訳にはいかなかった。
ガシッと、頭上のロープを掴みスピードを殺す。
摩擦で手が焦げていく。
離すものか。
意識のロープをしっかり握る。
離すものか。
ガクンと衝撃と共に虚空にぶら下がった。
それから両手でロープを掴み、上に上っていく。
急げ。
急ぐんだ。
パチッと何かが接続された音と同時に目が覚めた。
手がジンジンしている。
頭痛が眩暈を引き起こす。
立ち上がるのに三分はかかった。
クラクラする。
壁にもたれながら、足をしっかりと地につける。
二階から声が聞こえる。
早く、行かなきゃ。
足を踏み出す。
すぐに倒れた。
階段の手すりを掴んで起き上がる。
もう一回。
一段ずつ慎重に登る。
類沢の声だ。
少し、勇気が湧く。
雰囲気は重い。
階段を登りきり、絶句した。
さっきあった扉がない。
それから、部屋に近づいた。
アカの両親の会話。
愛してる。
愛してる。
よく言える。