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どこまでも玩具
第11章 立たされた境地

 類沢の用意した講演会は万事上手くいったらしい。
 外部の医療関係者が病気の感染経路や、予防法などを二時間語って下さった。
 まさか、あのパンフレットが刑事事件を回避させた代物とは誰も思わなかっただろう。
 教室でそれを受け取ったとき、一瞬金原が目を合わせた。
 あれだ。
 そう言うように。
 あぁ、あれだ。
 俺も応えた。

 「そろそろ受験に集中しないとだからね。昼休みが静かだよ」
 類沢は荷物をまとめながら云った。
 あの女生徒たちか。
 確かに、最近見ていない。
 「あの有紗って子は、元気?」
 「まぁ、ご想像通り」
 類沢は小さく笑った。
 嫌いじゃないんだろうな。
 ああいう無鉄砲タイプ。
 諦めない。
 「そうだ、先生」
 「ナニ?」
 思い出した。
 訊くのは今しかない気がする。
 「あの……有紗が反省室に行った日、告白したんですか」
 「告白? あの時ね。いや、されてないよ」
 予想外だ。
 「え、じゃあなんで」
 「彼女が反省室に入ったかって? 僕が出張に持って行く資料が反省室の隣に仕舞ってあったんだ。わざわざ書くのも面倒だったから、張り紙は誤魔化してね」
 余計に気になる。
 なら、なんで有紗が。
 カチャン。
 鞄の口を閉める音が響く。
 「戻ろうとしたら、丁度雛谷先生が有紗を引っ張って来てね。僕がいない間に保健室を漁っていたらしい」
 有紗らしいな。
 俺は雛谷という言葉に反応しないよう意識した。
 「だから、すれ違いだったかな。へぇ……告白するつもりだったんだ。悪いことしたな」
 保健室を出て、鍵を閉める。
 俺は類沢の隣を歩いて職員玄関に向かった。
 途中、下駄箱で靴を持って。
 この時間になると残っている教師も殆どいない。
 暗い廊下に足音が響く。
 玄関を抜け、駐車場を歩く。
 雪が積もっている。
 「気をつけてね」
 革靴が滑る。
 転ばないようにするだけで精一杯。
 そんな中、類沢はスタスタと先に行くのだから、不思議だ。
 車のライトが、開錠を知らせる。
 「告白、ねぇ」
 類沢は呟きながら車に乗った。
 すぐに助手席に乗る。
 慣れたことだった。
 アカの一件以来、類沢が帰りは送ると言ってきたのだ。
 勿論、命令に近いので俺に拒否権はない。
 でも、断る選択肢は俺の中になかった。
 むしろ嬉しかった。
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