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どこまでも玩具
第11章 立たされた境地
―お揃いですね。俺と先生の名前―
ギシリ。
起き上がり、隣に眠る瑞希に目を向ける。
静かに寝ている。
頭痛がする。
先日からの、やまない頭痛。
原因をやっと知れた。
今日を予感していたんだろう。
ベッドから降り、寝室を出る。
まだ日付も変わらない時刻。
今日、瑞希を連れて来たのは間違いだったかもしれない。
いつもの様に、家に降ろしてくれば、あの青年に見られずに済んだのに。
抱きたくなった。
それだけの理由。
篠田が朝の職員会議で言った言葉に触発されて。
ソファーに座り、煙草を取り出す。
―先生が煙草を吸うとこ、好きですよ。格好良くて―
目頭を押さえる。
味がしなくて、すぐに灰皿に押し付けた。
雅樹に邪魔をされた気がする。
西雅樹。
何を企んで今更現れる。
二本目に手を伸ばし、やめる。
月明かりが灰皿に反射する。
壁に光が模様を描いている。
この光。
雅樹と見たことがある。
海が好きな彼が、好きだった光。
目を閉じる。
眠気はない。
闇の中に引き摺り込もうとしてくるのは、自分の過去。
学園に赴任する前の。
前の、学校の。
雅樹の学校の。
「先生! 怪我しました、もうすぐ死にます!」
勢い良く飛び込んできたジャージ姿の生徒に、類沢はつい笑ってしまった。
「大丈夫。それだけ意識がハッキリしてれば死なないよ」
生徒は息を切らしながら、ヨロヨロと歩いてくる。
「そこに座って。消毒するから」
「このガーゼで拭けばいいんですか?」
「勝手にやらないの」
四月に新任し、もうすぐ三カ月。
六月の鬱陶しい湿気が満ちている。
毎日来る女生徒達を追い返すのも慣れた時期だった。
腕から流れる血を丁寧に拭う。
死ぬと云った割には、随分平気そうだ。
耐えているだけかもしれないが。
包帯を巻き、固定する。
「何で怪我したの」
「え……喧嘩?」
「僕に訊かないでよ」
「喧嘩です」
生徒はバツが悪そうにした。
喧嘩か。
自分もよくした。
孤児院育ちというだけで、因縁つけてくる馬鹿が多かったから。
おかげで体は鍛えられたが。
感謝はしていない。
「勝ったの?」
「勿論」
誇らしげに胸を張る。
類沢は記録表を取り出した。
「名前とクラスは?」
「三年五組、西雅樹です」