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どこまでも玩具
第11章 立たされた境地

 化学準備室に入る。
 俺はまたコートを脱いだ。
 隣で部活をやっているらしく、少し安心する。
 ガラガラ。
 扉を閉める。
 大丈夫。
 密室じゃない。
 いざとなれば逃げられる。
 「何も言わないってことは、類沢先生の復讐を知ってるんだねぇ」
 俺は無言で応えた。
 「ま、それはいいや。話したいことは他にあって…」
 雛谷は机に腰掛け、俺に椅子に座るよう指示をする。
 コートと鞄を抱えたまま座る。
 「西雅樹って知ってる?」
 椅子から落ちそうになった。
 なぜ、雛谷の口からその名前が。
 「知ってるんだ」
 あぁ、バレた。
 いや、バレても何もないんだが。
 いや待て。
 本当に何もないのか。
 とにかく落ち着け。
 俺。
 雛谷は脚を組んだ。
 「そっか……実は先日その男が学園に来て、雅先生に会わせろの一点張りでさ。たまたま対応していたんだけど、特に気にならなかった」
 「はぁ」
 「で、今回の類沢先生の欠席。裁判。それを聞いて思い出したのはさ、彼が裁判の話がしたいって言ってたことなんだよねぇ」
 愕然とする。
 西雅樹は、学園に来てまで、申し込んできたのか。
 類沢は知ってるんだろうか。
 だから、家に来た。
 雛谷が髪をクルクル弄る。
 「あっ。何か知ってる顔だね」
 いきなり身を乗り出し、顔を近づけてきた。
 椅子の背に押し付けられるように圧倒されてしまう。
 「瑞希も関係してるー? その裁判にさ」
 「か、関係してても、雛谷先生には関係ないです」
 「あるよ」
 そこで大仰に腕を広げてみせる。
 「だって類沢先生がいなくなっちゃえば、遠慮なく瑞希を」
 わざと言葉を切り、にっと笑う。
 恐ろしい人だ。
 「……そんなことになったら雛谷先生は俺と法廷で闘いますね」
 「楽しみだねー」
 時計が五時を告げる。
 「類沢先生って瑞希のなんなのかな?」
 核心を突かれた気がした。
 「……先生です」
 「違うよ、違う。そういう類の答えは期待していない」
 黙るしかない。
 わかんないから。
 俺にとって、なにか。
 逆に教えて欲しい。
 「西雅樹って男の子も……瑞希みたいな生徒だったのかね」
 俺は目を見開いて立ち上がった。
 「失礼します」
 なんだ。
 きっと、聞きたくなかったんだ。
 それだけは。

 「やっぱりねぇ」
 雛谷は扉を見つめて笑った。
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