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どこまでも玩具
第12章 晒された命

 病院に着くと、瑞希はすぐに白衣の連中に運ばれていった。
 ガタガタ。
 転がる音。
 器具が揺れる音。
 何かが装着される音。
 耳元には全てが押し寄せ混ざり合うように届いた。
 救急外来にしては珍しく、人はいなかった。
 音が扉に吸い込まれ、閉じる轟音の後に何も聞こえなくなった。
 肩でしていた息も、静かになっていた。
 携帯を取り出す。
 番号を押そうとして、思い出した。
 瑞希には、ここに来る肉親がいないことを。
 妹は県外の実家。
 日付が替わる前には来られない。
 番号もわからない。
 宙に止まった指先が、力なくある数字を押した。
 「……もしもし?」
 少し焦った涙声。
 後ろで聞き慣れた声もする。
 「麻那さん」
 「雅? 雅なのね。アナタ今どこにいるのよ、もう三時間にもなるわよ」
 本当に、貴女は母だ。
 「なんで、病院なんかに」
 「今日は帰れそうにありません……約束を破るのは二回目ですね」
 「いいの、そんなこと。なにがあったの? 瑞希って人は一緒なの?」
 「一緒でした」
 受話器の向こうで、貴女は混乱しているだろうか。
 僕の代わりに。
 「あっ。ちょっと有紗ちゃ……」
 「類沢せんせっ! どこにいるんですかっ。今日、せんせに伝えたいことがあるんです! 私は……」
 「仁野有紗。あとでいくらでも聞いてあげるから、今は黙って」
 「せん……せ」
 「麻那さんと、待ってて」
 切ろうとしたとき、有紗が叫んだ。
 「待ってます! 私は絶対せんせを待ってますから! 裁判になんかせんせを奪われたりしないんだから!」
 ピッ。
 右手が重力に従い、下りる。
 鼓膜を揺らすのは、有紗の言葉ではなくて、救急車が来たとき瑞希が呟いた一言。
 意識が戻った訳ではない。
 譫言のような、一言。

 ―助けて……先生―

 そこで切れたと思った。
 だが、瑞希は唇を動かした。

 ―西……雅樹を、助け……て―

 瑞希は雅樹と何を話したんだろう。
 嫌に冷静な頭に手を添える。
 目を瞑ると同時によろめき、壁にもたれた。
 こうしてはいられない。
 足を引きずり、瑞希の残像を追う。
 カツンカツン。
 カツン……カツン。
 自分の足音だけが、廊下に響く。
 赤い光が灯っている。
 強固に閉ざされた扉の上に。
 「親族ですか」
 書類を抱えた看護婦。
 「教師です」
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