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どこまでも玩具
第12章 晒された命
「親族の方に連絡は着きましたか」
疲れた顔をした彼女が、ふらつく体に手を伸ばす。
類沢は丁寧にその手を拒絶した。
「いえ。両親を最近亡くしたんですよ……あのバス事故で」
この病院も患者が来たのだろう。
看護婦は表情を暗くし、短く「そうでしたか」と答えた。
「容態は?」
「非常に危うい、と言うしかありません。骨の間を心臓付近まで深く貫通した傷のせいで出血多量……腕の傷も骨と血管を削っています。それと……」
目が床をさ迷う。
言うのを躊躇うように。
「それと、なんですか」
「あ、えと。過剰量の睡眠薬による昏睡状態に陥っていたようで……脳に障害が残る可能性もあります」
睡眠薬。
頭痛すら感じない。
瞬き一つ出来なかった。
「とにかく今は、手術の成功を祈るのみです」
「成功率は?」
「……執刀医によりますと、50パーセントということです」
50パーセント。
死ぬか、生きるかが、同等。
「では、私はこれで……あちらに温かい飲み物があります。無理をなさらないで下さい」
看護婦がいなくなり、椅子に座る。
釘数本で、人は死に至る。
こんなことを、こんな形で知るとは予想もしなかった。
雅樹に昔、喧嘩で武器だけは使うなと指導したことがある。
でも、彼は手放さなかった。
あの頃の過ちが、今になってこんな結果を生むとは。
ゴムを解き、髪を下ろす。
今は脳を圧迫するものを取り除きたかった。
考えがまとめられるように。
目が床の模様を意味もなくなぞる。
成功率は50パーセント。
脳に障害が残る可能性もある。
かつて、同じ状況を見た。
施設で階段から落ちた同級生が、救急車に運ばれた時だ。
元々、抵抗力の弱い男子だった。
病院に運ばれ、次の日には名簿から名前が消えていた。
髪を裂くように指を入れ、頭を抱える。
あの子が50パーセントを掴めなかった分、今瑞希に残りの50パーセントを与えられないだろうか。
二人に一人が死ぬならば、あの子の死を瑞希の生に替えてやりたい。
落ち着け、類沢雅。
できないことを考えても仕方がないだけだ。
口を押さえ、深く息を吐く。
―クリスマスまで……ここにいない?―
あの時、もっと強く云っていれば、瑞希が雅樹に会うことはなかったかもしれない。
ダンッ。
膝に拳をぶつける。