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どこまでも玩具
第12章 晒された命
車に乗り込み、アクセルを踏む。
まだ眠る街を止まらずに駆ける。
煙草をくわえ、咬み千切る前に灰皿に潰す。
信号が赤く光る度、体が熱くなる。
邪魔するな。
頭を押さえ、耐える。
ギキッと音を立て、自宅前に車を止めた。
車庫入れなど考えられなかった。
扉を開き、中に入る。
弦宮達はいなかった。
無音。
床の感覚も無く、リビングを過ぎ、寝室に向かう。
壁際のスイッチを点けようとした手が滑り、机に落ちた。
指先にデジカメが触れる。
瑞希が来た晩、使ったんだった。
それを床に捨てた時、小さなメモに気づいた。
昨日の朝はなかったはずだ。
霞む視界で紙を摘む。
弦宮か。
いや、筆跡が違う。
これは……
類沢先生
カメラのメモリは預かります
こんな所に放置しちゃダメですよ
裁判が終わったら、お返しします
瑞希の字。
下半分が何重にも折られている。
開いて、現れた一文。
強く、濃く書かれた一言。
死なないで下さい
指先から紙片が落ちる。
口元が笑い、無様に歪む。
「ふ……くく。こっちのセリフだ」
ああ。
消えた。
何かが消えた、感触がした。
ガンッ。
椅子が壁にぶつかり、一瞬後に落下した。
宙に浮いた足が、そっと地に着く。
痛みは無い。
ソファに手を掛け、一気に背から床に叩きつける。
連続して支柱の木が折れる。
「はは……あはははっ」
弾けた綿が散らばる。
いっそ、視界を白く埋めてしまえばいいのに。
ガタン。
棚が倒れる。
本が舞う。
ガラスが割れる。
ワインが流れ、手が赤く濡れる。
息を吐いて、部屋を見渡すと、原型を留めているものなどなかった。
白い壁にもたれ、煙草をくわえる。
火を点け、ライターを投げる。
空中で熱だけ残して火が消える。
「あーあ……」
荒れた部屋を眺める。
「こんなんじゃ、瑞希呼んで麻那さんと食事出来ないね」
煙を吸い、煙を吐く。
味はしない。
ただ、肺を汚すだけ。
破片が刺さったんだろうか。
血が垂れる腕を見下ろす。
釘の刺さった瑞希の腕が重なる。
西雅樹を、助けて。
あんな状況で、よく自分を傷つけた人間を心配できるね。
馬鹿な瑞希。
「馬鹿はどっちだろうね」
朝日が無遠慮に、カーテンを貫き照らし出す。