この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
どこまでも玩具
第12章 晒された命
チャイムが鳴る。
二時間ほど寝ていたみたいだ。
乱れた服と、壊れた部屋をそのままに立ち上がった。
「はい?」
眩しい朝日の中に、彼のシルエットが浮かび上がる。
シャツの裾を握り締め、どうしたらいいかわからない顔をして。
癖の残る髪は、帰っていない証拠。
「お……おはようございます」
段々小さくなる声に頬が緩む。
「入ったら? 足の踏み場もないと思うけど」
顔を上げて、少しだけ微笑んだ雅樹はぐらりと傾いた。
抱き留めた手から力が抜け、二人で玄関に倒れる。
靴箱に肩でもたれ、両腕の中に雅樹を包む。
「寝不足だね」
「先生こそ」
見下ろしたうなじには沢山の引っ掻き傷が残っている。
それを撫でると、雅樹が身を起こした。
「……怒ってないんですか」
「右を見たらわかるよ」
恐る恐る右に向けた目を見開く。
「怒ってるじゃないですか」
「責任とって弁償しなよ」
「海外から取り寄せられませんよ。家具マニアなんですから」
ははは、と空笑いをする。
風が吹いて、玄関の扉が閉まった。
暗くなる視界。
「落ち着いた?」
「麻痺しただけです」
悲しい響き。
まあ、そうだろう。
瑞希は今も、病室で眠っているのだから。
「宮内って、家族いないんですか」
「なんで?」
「家に誰もいなかったし、先生の家に泊まってるんですよね」
類沢は深く溜め息を吐いた。
「あのバスの落下事故で両親を亡くした。妹は実家に住んでる」
空気が重くなる。
過去が忍び寄るように。
あの現場のきな臭さが漂うように。
「お前と一緒だよ」
雅樹が離れ、扉の前で足を抱える。
虚ろな眼で。
「……河南ですか」
類沢は返事をせずに起き上がり、リビングへ歩いた。
破片を避け、キッチンに向かう。
カップを二つ取り、珈琲を淹れて玄関に戻る。
「飲まず食わずでしょ」
「ありがとうございます」
だが、雅樹は口を付けなかった。
波面を見つめている。
暫くして前のめりになると、頭をかきむしりながら呻いた。
「あ……ぅあああ」
類沢はカップを置き、その背中に触れようとした。
「ああああっ! 俺って救いようの無い屑ですね先生!」