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どこまでも玩具
第12章 晒された命
「……え?」
雅樹が瞳孔の開いた眼をさまよわせる。
「こんな、こんな時すら……宮内が死んだら先生っ……先生が帰って来るんじゃないかって」
無音。
何もかもが息を潜める。
雅樹の声だけが聞こえる。
「昨日、宮内を刺した瞬間から、ずっと! ずっと……チャンスだって、これで良かったって……囁くんですよ。ナニかが頭ん中で延々と……煩い。煩い。煩いんですっ、でも消えなくて……だって、やっぱりチャンスなんですから。俺は、人を殺してまで先生に離れて欲しくなくて」
スキダカラ。
「先生、俺は……俺はどうしたらっ……っ」
「ごめんね」
雅樹が硬直する。
「ごめんね、雅樹」
機械のように、ぎこちなく首を振る。
否定するように。
でも、耳は塞げないから、雅樹はただ身を守るために脚を引き寄せる。
「愛せなくて、ごめんね」
「違う……違う!」
「答えられなくて、ごめんね」
「やめてください……」
「今は」
「やめてくださいよっ!」
ガチャン。
カップが割れて、黒い液体が床に広がる。
黒く、黒く。
白い大理石を染めていく。
「俺を……俺を過去にしないでください」
焦げた香りが鼻につく。
「宮内と俺は、何が違うんですか」
類沢は蒼い瞳で雅樹を見つめる。
「どうしたらっ……宮内に勝てるんですか。先生の今になれるんですか……どうしたら! 先生に愛してもらえるんですか!」
懸命に息を吸い、思いを吐き出す。
そうだ。
西雅樹は、そういう人間だった。
「わからない」
「……え?」
「僕も瑞希に何故惹かれているかわからない」
「そ……そんなの」
「なら雅樹は、どうして僕にこだわるの?」
「愛して欲しいからですっ!」
それ以外にありますか。
自信に満ちた答え。
「愛して欲しい、か。こんな人間のどこにそう思えるの?」
雅樹が首を振る。
「先生……いやです。こんな先生、見たことありません。なんで……不安な顔なんかしてるんですか」
「なんでかな」
「俺は……俺は、何にも染まらない、強い先生がっ……ああああ! ムカついて仕方がないですっ! なんで先生変わるんですか。宮内にはどうして先生を変えられたんですか!」
「不安なんだ。失いたくないものを失うことが」
雅樹が唇を震わせて、激しく首を振る。