この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
どこまでも玩具
第12章 晒された命
類沢がおもむろに手を伸ばし、雅樹の腕を掴む。
逃れようと振るが、力の差は歴然だ。
「先生……どうか、殺してくれませんか」
涙でボロボロになった顔。
「それは出来ない」
自分の乾いた頬は、生気が無いようにすら思えてくる。
「雅樹」
「聞きたくないっ!」
ガンッ。
米噛みに衝撃が走る。
雅樹が右手を突き出したまま、固まる。
そっと殴られた場所に触れる。
「あ……」
熱い。
痛みがジンジンと脳に渡る。
なのに、痛いより先に現れたのは、笑いだった。
背中を揺らして笑う類沢を、雅樹は呆然と見つめる。
「はは……ああ、ごめん。急に思い出しちゃってさ。雅樹が喧嘩を申し込んで来たときのことを」
「な……なんですか。それ」
「いや。強くなったなぁって」
今更痛みに眉をしかめる。
口も切ったみたいだ。
指先で血を拭う。
―助けて……先生―
「なんなんですかぁ……」
―西……雅樹を、助け……て―
泣く前に頭を抱き寄せる。
「失いたくないのは、雅樹も同じだから」
「え」
「殺せなんて言わないでくれる?」
「な……」
雅樹がしがみつく。
「意味わかんないですよもう!」
大きな泣き声を聞いていると、ナニかがこみ上げてきた。
その感情の名前を僕は知らない。
だから、涙が頬に伝うのも気づかないフリをした。
疲れ果てた雅樹が寝室で眠っている間に掃除を済ませる。
割れたものはゴミ袋にまとめた。
棚は修理できるだろう。
ソファも縫えば、そう不便はない。
元々強度の弱いものは買わない。
テーブルも縁が欠けた程度。
綺麗になった部屋からは、余分なものが消えた清々しさがあった。
時計を確認する。
九時。
すぐにコートを羽織り、病院に走った。
病室のドアを開けると、真っ白な空間に踏み入れるのが躊躇われた。
布団の中で、静かに息をする瑞希。
ただ眠っているように見えるが、体のあちこちから伸びる管がそれを否定する。
類沢は椅子を引き寄せ、そばに座った。
穏やかな顔をしている。
一昨日の寝顔となんら変わりない。
声を掛ければ起きるんじゃないかと錯覚してしまうほど。
「瑞希、おはよう」
言葉は虚しく壁にぶつかるだけ。
その唇が動くことはなかった。
コンコン。
医者が現れ、廊下に促す。
逃れようと振るが、力の差は歴然だ。
「先生……どうか、殺してくれませんか」
涙でボロボロになった顔。
「それは出来ない」
自分の乾いた頬は、生気が無いようにすら思えてくる。
「雅樹」
「聞きたくないっ!」
ガンッ。
米噛みに衝撃が走る。
雅樹が右手を突き出したまま、固まる。
そっと殴られた場所に触れる。
「あ……」
熱い。
痛みがジンジンと脳に渡る。
なのに、痛いより先に現れたのは、笑いだった。
背中を揺らして笑う類沢を、雅樹は呆然と見つめる。
「はは……ああ、ごめん。急に思い出しちゃってさ。雅樹が喧嘩を申し込んで来たときのことを」
「な……なんですか。それ」
「いや。強くなったなぁって」
今更痛みに眉をしかめる。
口も切ったみたいだ。
指先で血を拭う。
―助けて……先生―
「なんなんですかぁ……」
―西……雅樹を、助け……て―
泣く前に頭を抱き寄せる。
「失いたくないのは、雅樹も同じだから」
「え」
「殺せなんて言わないでくれる?」
「な……」
雅樹がしがみつく。
「意味わかんないですよもう!」
大きな泣き声を聞いていると、ナニかがこみ上げてきた。
その感情の名前を僕は知らない。
だから、涙が頬に伝うのも気づかないフリをした。
疲れ果てた雅樹が寝室で眠っている間に掃除を済ませる。
割れたものはゴミ袋にまとめた。
棚は修理できるだろう。
ソファも縫えば、そう不便はない。
元々強度の弱いものは買わない。
テーブルも縁が欠けた程度。
綺麗になった部屋からは、余分なものが消えた清々しさがあった。
時計を確認する。
九時。
すぐにコートを羽織り、病院に走った。
病室のドアを開けると、真っ白な空間に踏み入れるのが躊躇われた。
布団の中で、静かに息をする瑞希。
ただ眠っているように見えるが、体のあちこちから伸びる管がそれを否定する。
類沢は椅子を引き寄せ、そばに座った。
穏やかな顔をしている。
一昨日の寝顔となんら変わりない。
声を掛ければ起きるんじゃないかと錯覚してしまうほど。
「瑞希、おはよう」
言葉は虚しく壁にぶつかるだけ。
その唇が動くことはなかった。
コンコン。
医者が現れ、廊下に促す。