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どこまでも玩具
第13章 どこまでも
非常灯の明かりを頼りに病室を見つける。
瑞希は変わらず眠っていた。
大きく呼吸をして、椅子に座る。
類沢は、何かが抜けて、清々しささえ覚えていた。
壁に背中を預け、瑞希の手を握る。
弱く脈打つ振動が伝わる。
まだ、生きている証拠。
―今夜、意識が戻らなければ……―
焦りはない。
瑞希の意思だ。
手は出せない。
こうしてそばで待つだけ。
長い睫毛が呼吸の度に揺れる。
赤みが失せた頬は、人形のようだった。
煩いくらいの静けさに、鼓膜が麻痺してくる。
時刻はもうすぐ日付を越える。
時間が経つにつれ、眠気が消えて冴えてくる。
深夜の魔力だ。
脳が活性化する。
珈琲を流し込んだせいもあるかもしれないが。
疲れも忘れて、類沢は瑞希を見つめていた。
光が差し込んでくる。
鳥がさえずり、窓を横切った。
日の出だ。
類沢は陽光の眩しさに瞬きを何回かした。
病室を光が段々と占めていく。
夢か現か定まらない。
突然、手に違和感を感じた。
眉をひそめて目をやると、かすかに指が動いたのだ。
瑞希の呼吸が不規則になり、瞼が収縮する。
起きる。
類沢は組んでいた脚を解いて、ベッドに向き直った。
その瞬間は呆気なく訪れた。
パチッと眼が開いたのだ。
しばらく天井の模様を確かめるように静止したのち、周りをキョロキョロと眺め回す。
朝日に目を細め、それから類沢を見つけた。
僅かに見開き、息を吸う。
視覚はある。
類沢は瑞希の言葉を待った。
長い沈黙。
実際には、数十秒だったかもしれない。
「あ……」
身を起こそうとして、顔を歪めた。
まだ傷は完治していない。
心臓を押さえ、冷や汗をかきながら浅い呼吸を繰り返す。
類沢が支えると、微かに会釈をした。
「あの……」
その表情に全てを悟った。
すぐには受け入れられない事実が包み込んでくる。
「あなたは、誰ですか」