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どこまでも玩具
第13章 どこまでも
覚悟していた。
そう言えば、嘘になる。
けれども、奇妙なことに動揺は微塵にもなかった。
記憶喪失など、関係なかった。
「え……なんで、ここに。俺……誰かが呼んで……俺」
頭を抱えながら、早口で呟く。
シーツを見つめて。
「か……なん」
類沢は片眉を上げた。
なぜ、今西雅樹の妹の名が?
「俺、河南に会って……河南に、云われて……ああ、くそっ……あのとき、云われたのは……」
医師の言葉が浮かぶ。
手術中、一度心拍が止まったと聞いた。
亡くなった河南に会ったなら……
類沢は今の考えを冷笑する。
わからないことを考えても、仕方ない。
瑞希はシーツを強く握った。
それから左手を右手でなぞる。
さする。
確かめるように。
「手……あの手」
何かを逃してしまったかのように、顔を歪めた。
「ああっ……ここどこだ。俺はなんなんだ……あれは」
類沢は優しく横から抱き締めた。
「考えなくていいよ」
瑞希がその腕にしがみつく。
「嫌です」
小さく、力強く囁いた。
「思い出さなきゃ……」
言葉が終わる前に、唇を重ねた。
瑞希が目を見開く。
何か言いかけた口に舌を差し込み、絡ませる。
クチュリという音がやけに響く。
抵抗にベッドが軋んだ。
肩が強張る。
噛みつこうとする度、首筋をなで上げた。
声が上がりそうになるのを必死で我慢している。
奥に逃げる舌を引き出す。
羞恥で熱が上がった。
胸元をドンドンたたかれる。
その内、力無く縋るように、震える指で肩を掴んだ。
口の端から唾液が伝い、鎖骨に滴った。
離れた時、瑞希は息が切れていた。
信じられないように濡れた唇に触れる。
「あ……」
揺れる視線が目の前の男を捕らえた。
「僕は類沢雅だ」
「な……ん」
下唇を噛み締めて、思い切り右手を振りかぶる。
「記憶が無くなっても構わない」
手が空中で止まる。
目は見張ったまま。
瑞希が首を傾けながら、僕を観察する。
手を掴み、ゆっくりと下ろさせた。
「お前の教師だった僕を忘れていても構わない」