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どこまでも玩具
第3章 枯らされた友情
紅乃木は屋上で煙草を煙らせながら腕時計を確認する。
六時四十分。
金原からの連絡、なし。
フー……。
白い煙が夕日に染まる。
この朱が好きだ。
自分の髪も、この朱に近づきたいが為の色にした。
実際は、夕日に比べたら酷く汚い色に見えて仕方がない。
部活の終了時間が過ぎ、ユニフォームのまま校門に向かう生徒たち。
カラオケがどうのとか、デートがどうのとか騒いでいるのを見下ろして、切なくなった。
本来なら自分たちも、あの一員に入るはずなのに。
なんで瑞希だけ。
なんで自分たちだけ。
「みぃずき……」
紅乃木は煙草を校庭に弾いた。
落ちていく煙草を眺めていると、少しだけ気が紛れた。
六時五十分。
まだ連絡は来ない。
ひょっとしてもう帰ったのだろうか。
あり得る。
金原は元々こまめに連絡するタイプじゃない。
家に帰ってからメールすれば良いと思ってるかもしれない。
紅乃木は自嘲気味に笑って首を振る。
あり得ない。
今回は問題が問題だ。
金原が瑞希を軽んじる筈がない。
携帯を開く。
すぐにメールが一件来た。
金原かと思えば、瑞希だった。
『今日はありがとう。明日からちゃんと学校行けるから』
短いし、絵文字もない。
しかし思いは伝わった。
右手だけで素早く返信を打つ。
『わかった。迎えに行くから、金原と一緒に』
送信完了まで画面を見つめる。
類沢雅。
離退任式で見た時、父に雰囲気が似ていて不快だった。
容姿とかじゃない。
空気だ。
自分のことを道具としか見ていない父と同じ空気。
放つ本人は涼しい顔して、こちらだけが怯えてる。
紅乃木は手すりにもたれた。
父が消えて一年。
まだ彼の亡霊に怯えてる。
―ほら、こっちに来なさい―
歯を噛み締める。
もうあいつに捕まることはない。
髪だって変えた。
街中で会っても気づかれない。
―綺麗だ…―
紅乃木は手すりを強く握り締めた。
七時だ。
約束の時間。
念の為携帯を見るが、連絡はない。
紅乃木はポケットに手を突っ込んで屋上の扉に向かった。
軋む階段を降り、保健室に辿り着く。
『入室禁止―不在』
電気も消えている。
紅乃木は暫くうろうろして、玄関に足を向ける。
靴を出そうとした時、あることに気づいた。
金原の靴がある。