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どこまでも玩具
第7章 阻まれた関係
 俺は慌てて立ち上がる。
 だが、雛谷は手を離さない。
 よろめいて、隣に座り込む。
 「あのさ」
 まだ震えてる。
 もう麻痺していたと思っていた感覚。
 「類沢先生になにされたの?」
 震えが止まる。
 息も止まる。
 雛谷を見る目が固まる。
 なんで。
 なんで、この人も。
 なんで。
 気づいてしまう。
 俺は足を身に寄せた。
 「あの教師、クビにできないかなぁ」
 さらりと呟いた雛谷に、絶句する。
 そんな俺を見て笑顔になる彼。
 「大丈夫。二度と怖い思いはさせないから。法の目かいくぐって反省室に閉じ込めたっていいんだし」
 「雛谷先生……?」
 「生徒に手を出しておいてのうのうと教師を続けてられるのは、その権利がある人間だけだ」
 悪寒。
 俺はそろそろと掴まれてない方の手を後ろに置く。
 逃げやすいように。
 立ち上がりやすいように。
 「ね、宮内もそう思わない?」
 俺は首を動かせなかった。


 寝転がった影を見下ろし、雛谷は口の端を持ち上げて笑う。
 「チョロいねぇ、瑞希?」
 身動き一つしない生徒を担ぎ上げ、その頬にキスをする。
 「かわいぃ」
 雛谷は瑞希を抱っこしたまま屋上の倉庫に運びこんだ。
 荷物の隅に座らせる。
 それから持っていたテープで口を塞ぎ、手足を縛る。
 「良い子にしててね」
 扉が閉まる瞬間、瑞希は夢うつつの中、雛谷の姿を見た。
 雛谷は満足げに息を一つ吐くと、階段を下りて授業に向かった。
 ポケットに薬品のボトルを滑り込ませる。
 化学教師とは、なんて簡単に法を抜け出せる職業だろうか。
 催眠薬だろうと。
 媚薬だろうと。
 カツカツ。
 授業まであと二十分。
 プリントの印刷でもしようか。
 職員室に向かいがてら、保健室の方を確認すると、類沢がソワソワと外を確認していた。
 その理由を知る彼は愉快げに通り過ぎる。
 二人の目が一瞬だけ合った。
 そして、影は遠ざかる。
 雛谷は、類沢の気持ちを読んで一層面白くなった。
 気づいている。
 瑞希が手に落ちたことを気づいている。
 でも、何もできない。
 そんな彼を嘲笑う。
 放課後まであと一時間。
 瑞希には一時間耐えてもらわなきゃ。
 そして、楽しみは一時間後だ。
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