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真紅の絆
第3章 二話
一面に薄紫に輝くすみれの花が咲いている。その様子を見て、自然と桃丸の頬が緩んだ。

――綺麗だ。宣伸院さまによくお似合になる。

桃丸は、主君・姫野雅影の母、宣伸院椿姫(せんしんいん つばきひめ)の土産になるものを探していた。先日から体調が優れないことを訊いていたから薬草を集めていたけれど、それだけでは足りない。

一年前に他界した桃丸の母も、花をこよなく愛していた。その性格を継いでか、桃丸もまた花が好きである。
父親で上司でもある晴貞からは、「花を愛でるよりも学問をしなさい」と叱られたりもしたが、めげずに家や城の主君の執務室を花一杯に飾っている。

亡くなった母は死の間際、桃丸にこう言い残していた。

「私の分まで椿姫さまにお花を届けてあげて。あのお方の心を綺麗なお花で満たしてあげて欲しいの。椿さまは強く見えても寂しがり屋で、あのお方を残してあの世に行くのが気がかりで…」

大切な人を残して黄泉の国に旅立ってしまった母の為。そして主君の母君のため。
桃丸は背中にしょった袋の中に薬草を詰め、両手一杯にすみれを持った。
愛おしげにすみれに頬を寄せる。

「いいなぁ…。やっぱりお花は可愛い」

こんな姿を父に見られたら、また叱責されるに違いないけれど。幸い誰も見ていなかった。

宣伸院のいる館に向かおうとすると、遠くから馬の蹄の音が聞こえた。
その軽快な音から、馬が駿馬であること、乗り手が優れた腕を持っていることがわかる。
その音には覚えがあった。

――殿だ。

主君もまた、母に会いに来たのだろうと、桃丸は道の脇に寄り、膝をつく。
蹄の音は、桃丸のすぐ手前で止まった。

「桃、乗れ!」

案の定、雅影だった。
主は輝くような笑みで、桃丸に愛馬の「馬太郎」に乗ることを促した。
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