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真紅の絆
第3章 二話
「殿、恐れながら…この先は急な坂です。俺が乗ったら馬太郎が可哀想ですよ」

遠慮しつつ、つい「俺」と言ってしまった。主君には「私」を使うのが正しいのだけど。
幼い頃からの付き合いである雅影には、ついつい距離が近くなってしまう。常に戒めてはいるものの、気が弛むとこうなってしまうのである。

こんなところも父から見たら気に入らないらしい。
国一番の権力者である筆頭家老の晴貞は、常に主君と家臣の在り方を桃丸に説いていた。

「…じゃあ、俺も降りるか」

そう言うと、軽やかに馬太郎から降りてしまう。そして桃丸の空いている手を握った。

「こうして花を持った桃と手を繋ぐと、昔に戻ったみたいだよなー」

懐かしそうにそう笑う主君。
そう言えば、よく花を見つけては主を誘っていたものだと思いかえす。

当時は上下関係なんてものを意識することもなく、主に甘えていた自分。それを思い返すと恥ずかしくもなる。

「可愛い花だな」

桃丸の腕のある花を見て、柔らかく笑った。
その笑顔は普段見せるものとは少し違っていて…領主としての重圧から解放されたかのように見えた。

「男らしくないって思います?お花集めるよりも、学問や武術を学んだ方がいいって…」

少し拗ねてそう言いかえした。
なぜだろう。昔みたいに素直になれない自分がいることに、桃丸は戸惑いつつある。
それで「男らしくない」と否定されたら悲しいのは自分なのに。

「桃らしければそれでいいんじゃね?俺も花は好きだ。桃の花が一番好きだけどな」

そう言い、桃丸の肩を抱き寄せる。そして頬に軽く口づけを落とした。

衆道――主君と特別な肉体関係を結んでから二年になる。だからなのか、たまにこういう濃厚な行動を起こしてくる。
桃丸は、どう受け取っていいのかわからずに俯いた。
心は雅影の起こす行動全てに高揚してしまうというのに…。

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