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宵闇
第10章 葉月


深くついた溜め息。
天を仰ぎ……そのまま、琴音に視線を流す。


「……好きだよ、琴音」


そっと、呟く。
彼女は眠ったままだ。


……ねえ、琴音。
誰よりも君を知り、理解しているのはこの僕で。
僕も君以外はもう無理なのに、この想いはどうしても許されないのだろうか。


「好きなんだ……」


再びのその告白は、静かに闇に溶けていく。


聞こえてる? 琴音。

聞こえなくても、君の耳に届けばいい。
君の耳に──せめて微かにでも残れば。


……なんて。
そんなことを願ってしまう自分に思わず漏れた、自嘲気味な笑み。

手を伸ばせば、そこに彼女がいるのに。
すぐにでも、触れられる距離で眠っているのに。

……それが、できない。


ああ────……。


胸を襲う苦しさ。
たまらず、また息を吐く。


知ってしまった、琴音の身体。
艶かしい表情。
甘えきったねだり声。

きっと忘れられない。
忘れられるわけがない。

僕の目も指も、唇も……耳も、それを覚えてる。
当然だ。あのとき、僕のすべてに彼女を刻み込ませるつもりで触れていたのだから。


それでも『兄』としてこれからも生きるしかない。
それを知ってしまっても。
この先もずっと。

だからこれから僕を待つのはきっと、彼女にふれる前よりももっと苦しくてたまらない日々だろう。


僕は耐えられるだろうか。
いつまで耐えることができるだろうか。

……もはや身動きのとれない、この状態に。




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