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宵闇
第11章 惑い
「……あーあ!」
村上くんが大きな溜め息をつき、そのまま勢いをつけてベッドに仰向けに横たわる。
「なんで相手が葉月先輩って話だよな。
……んなの、はなっから勝ち目なんてねーじゃん」
村上くんの顔は私の背後にある。
だからそう言った彼の表情は窺えなかった。
静かに振り向くと、村上くんは私の視線から逃れるように右腕で両目を隠す。
「……他の奴だったら、ぜってー負ける気しねーのにさ」
私に向けてなのか、自分に向けてなのか──その小さな呟きが耳に届く。
何も言えずに彼の姿を見つめた。
隠された目は見えなくても、唇をぎっと噛むその様子に、彼の心境を思いまた胸が苦しくなる。
そのまま訪れた、長い静寂。
でも、決して居心地が悪いわけではない時間。
村上くんから目を逸らし、黙ったままでいた私の耳にやがて届いた彼の言葉。
「……告んねーの?」
それはごく、自然な問いかけだった。
いつもの会話の延長上にあるような。
私は背を向けたまま頷いて答えた。
「何で?」
村上くんが起きあがった気配。
「何で言わねーの」
……なんで、って。
そんなの決まってる。
だってこの想いを葉月くんに知られたら────。