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第11章 惑い

「距離置かれるの……やだもん」

「距離？」


意味がわからないとでもいうようなその口調。


「だって妹だと思ってた相手から突然好きだとか言われたら……普通そうなるんじゃない？」


そう理由を説明すると、少し間を置いてから彼は言った。


「や、でもさ。
もしかしたら葉月先輩もおまえのこと……好きかもしんねーじゃん」

「……葉月くんが？」


葉月くんが、私を？


「あはっ……あるわけないよ」


そんな都合のいい考えができる時期なんてもう過ぎていた。
確かにひそかな望みを抱いたときもあったけど、と楽しくもなんともないのに自嘲気味に漏れてしまう笑み。


「だってこの前……村上くんから告白されて迷ってるって伝えたけど。
でも──普通の反応だったもん」


動揺も何も見て取れなかった、あのときの葉月くんの態度。
思い出すと、やっぱり哀しくなる。
切なく……なる。


「……は？」


突然、村上くんが私の肩をひいた。
後ろからのぞき込むようにして私を見てくる。
真っ直ぐに、射るように。


「おまえ……試したわけ？」


その言葉に、思わずかあっと顔が熱くなった。


「……っ、違うよ！」


その視線に耐えきれず、目を逸らして下を向いた。


「そんなつもりで言ったんじゃないから……！」


相談のつもりで。
ただ、報告のつもりで。
……だからそれが目的じゃなくて。


ああ……でも。
結局、どれが目的だったんだろう。
……そんなつもり、だったのかな。


わからなくなっていた。
私はあのとき、どう思って、葉月くんに────。


「でも……そう思われても仕方ないけど……」


撥ね付けるような否定をやっぱり曖昧な言葉で後濁ししながら、また、私はそんな自分を嫌悪する────。