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宵闇
第11章 惑い
「……なんで?」
「ん?」
「なんでそんなに優しくしてくれるの……」
思わず呟く。
「……それ、今更聞く?」
苦笑いしながら村上くんはそれだけを答え、勢いよくベッドに倒れ込んだ。
「あー。もう寝よーぜ、桜井」
「村上くん……」
「おまえはこっち」
ポンポンと、自分の横を叩きながら。
「……何もしねーから。一緒に寝て」
「でも……」
「頼む」
私を見るその目は、とても静かだ。
ん、と頷いて、そばに横たわる。
──次の瞬間、私はぎゅっと抱き締められていた。
「あっ」
反射的に身体を強張らせてしまった私の耳元に
「これだけ。
……これでもう、最後────」
苦しげに落とされたその声。
違う意味で身体が震えた。
どうしようもなく泣きたくなった。
……ごめんね、村上くん────。
心の中で呟く。
それはもう、口に出しちゃだめな気がした。
だから、何度も心の中だけで。
こんなにも優しい、私を想ってくれる人。
応えられたら、そう思った。
でもできなかった。
頭ではわかってるはずなのに、どうして心はこんなにもいうことを聞いてくれないのか────。
桜井、と村上くんが吐息混じりに私の名を呼ぶ。
私を強く抱き締める。
髪を撫でてくる指先は、こんなときでもやっぱり……優しい。
私たちの、特別を望んだ関係はそんなふうに結局叶うことなく終わりを告げた。
彼は私にたくさんの気持ちをくれたけど、それに私は何も返せなかったことがとても心苦しい。
それでも彼は『一時でも俺を受け入れてくれて嬉しかった。すげー幸せだった』と、そう言ってくれた。
どこまでも優しくて、強い──そんな人に好きになってもらえて、求めてもらったこと。
……ずっと、忘れないでいよう。
そう思いながら、私は静かに目蓋を閉じた。