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宵闇
第11章 惑い
「……ありがと……」
反論なんて、する気も起きない。
素直にそう口にできた。
「ま、俺が言ってもあんまり説得力ねーか!」
にやりと笑って答えた彼。
つられるように、私も口元が緩んだ。
『だめならだめで────』そんなふうに思ったことはあっただろうか。
そんなの考えたくなくて、葉月くんの存在のない日々を考えることじたい頭が拒否してた。
好きだと気づくまでに四年間離れていた時期もあって、そのときはそれなりに普通に暮らせていたはずなのに──好きだと気づいたらそんなの耐えられないと思ってしまう。
人を好きになるって……なんていうか、本当に────。
「……なあ、桜井」
不意に呼び掛けられ、彼へと向いた意識。
「もしだめだったらさ……そのときは────」
私を見てくる真剣な目。
見つめ返したとき、その奥が揺れているのに気づいた。
……そのときは、なに────?
真面目な表情。
続きを待つ私の緊張は、彼が急に笑顔に変わったことで戸惑いに変わる。
え……と思わず声を漏らしてしまった私の動揺を楽しそうに見ながらの
「ざまーみろ、って笑ってやるよ!」
その、まさかの言葉。
「えっ!?」
「はは! 冗談!」
「……っ、もう!」
気持ちが緩み、笑いながら彼の胸元を軽く叩いて抗議する。
──と、突然その手を掴まれた。
咄嗟に村上くんを見ると、彼も私を見ていて。
「……笑ってやって。
それからちゃんと胸、貸してやるよ」
「村上くん……」
私の手を離しながらの、ちょっと切なそうなその笑い方。
途端に、きゅうっと胸が締め付けられた。