この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
宵闇
第4章 琴音

不意に彼が立ち止まる。
私も必然的にそうなった。
「……あのさ」
下を向いたまま彼が口を開いた。
「桜井さんって、彼氏とかいるの?」
え……と、驚きから彼を凝視してしまった私の目に、視線を合わせるようにゆっくりと顔を上げる。
「……あ、えと……いない、けど」
目をそらせないまま、答えた。
少しこわばっているように見えていた彼の表情が、ふっと緩んだのがわかる。
「さっきの人は────」
「あ……お兄ちゃん、だけど」
「だよね……! よかった」
口元を緩ませながら、私の方へ身体を向ける。
こんなふうに男の子に正面から見つめられることなんてなかったから、なんだかすごくどきどきしていた。
「えっと……俺、三組の村上っていうんだけど。
実はずっと桜井さんのこと気になってて──よかったらつきあってくれないかな」
「え……」
これって、告白────!?
……どうしよう、と頭の中はパニックになっていた。
心臓の動悸が激しくて仕方なかった。
「……だめ、かな」
黙ったままの私に、村上くんが答えを促してくる。
「あの……えっと。
その、ちょっとびっくりしちゃって……」
「だよね。突然すぎるかなって思ったんだけど……。
桜井さんかわいいし狙ってるやつ多いからさ、なんか早く告んなきゃって焦っちゃって」
ストレートに示される好意に、思わず顔が熱くなってしまう。
どうしよう、どうしよう──と頭の中はそればかりだったけど
「あの、少し時間もらえるかな……!」
何とか、それだけは伝えた。
「ん……わかった」
村上くんの反応にほっとしていると、じゃ、と彼はその場を離れ、緊張からようやく解放された私は大きく息を吐いた。
そのあと、ゆっくりと家への道を辿る。
私はどうしたらいいんだろう──と、そればかりを考えながら。

