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宵闇
第13章 衝動

「琴音ちゃんに好きな人がいたなんて僕は知らなかった」
追い討ちをかけるように葉月くんが呟いた。
また、心臓がどくどくといやな音を立て始める。
「……誰?」
まさかの質問。
そんなことを聞かれるなんて思ってなかった。
何も考えてなかった私の焦りはピークになる。
「この前……彼と付き合うかどうか迷ってるって言ったときも、前の彼氏の話をしたあのときも──僕は何も聞いてない」
葉月くんの言葉。
静かな口調なのに、確実に私は追いつめられていく。
「ん?」
……誰、って言われてもそんなの言えるわけない。
必死で言い訳を探す。
「……好きな人なんて……いないよ。
だってそれ村上くんに断る口実っていうか……それだけだもん────」
結局そんなふうに誤魔化すしかなかった。
声が震えてないことを願いながら。
「嘘」
なのに葉月くんは納得しない。
「嘘じゃないよ……」
「嘘だ」
断言に近い言い方で、私の言い訳を信じない。
何? 何なの葉月くん。
こんな言い方するなんて。
やっぱりなんだかおかしいよ、今日────。
……こわい。
身震いがした。
このままこんな密室にこうしてふたりでいて、こんなふうに追及されていたら私はもう自分の気持ちをきっと隠せなくなってしまう────。
「話がそれだけなら、私帰る……」
味わったことのないような空気が苦しくて、車から降りようとドアの取っ手を掴んだ。
途端に葉月くんが伸ばしてきた手に制される。

