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宵闇
第13章 衝動

「……っ! 降ろしてっ」
「まだ話は終わってないよ」
掴まれている手が熱い。
「だって葉月くん今日なんか変なんだもん……!」
こんな葉月くんはじめてだ。
どうしたらいいのかわからない。
ただもう早くこの場から逃げ出したくて仕方なかった。
「ねえ降りたい……降ろして!」
掴まれたままの手。
こんなときじゃなかったらきっとどんなにそれを嬉しく思えただろう。
でも今の私にはそんなことを感じる余裕なんて皆無だった。
「もう知ってるんだ……!」
そのとき突然葉月くんが声を荒げ、驚きでびくっと身体が震えた私の手をさらに強く握りしめる。
「……知ってるんだよ、琴音ちゃん……」
繰り返された言葉に、え……と戸惑いを隠せずに葉月くんに視線を向けた。
なに……?
……いま、何て言ったの……?
私を映す、揺れる葉月くんの瞳。
「だから──全部、わかってる」
全部って……それって……。
「琴音ちゃんが誰を好きなのかも」
「────!!」
決定的な言葉に愕然とした。
嘘……知ってるなんて……。
「……違う」
無意識のうちに呟いていた。
私が葉月くんを好きだってことが知られてるなんてそんな……そんなこと────!
「違うっ……違うの……!」
どうしよう、どうしたらいいの?
どうすれば誤魔化せるの──私の頭の中はこれ以上ないほどのパニックを起こしていた。
「そういうんじゃなくて……!」
違うから──と繰り返すしかできない自分に泣きたくなってくる。

