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宵闇
第14章 彼ら
──そしてそれは、その笑いが途切れた後の穏やかな沈黙の最中だった。
「……よかったな」
そんな言葉を、不意に村上くんがこぼした。
「────っ……!」
一気に、激しく胸にこみ上げてきた感情。
咄嗟にうつむいて、泣きそうになった自分を必死で抑えながら、ただ頷いて返した。
「ばーか。泣くな」
そんな私を、彼は察しているのだろう。
「……泣いてないもんっ」
でも、涙がこぼれる前に何とかこらえられ、村上くんを見上げながらそう反論した。
「やっぱ泣いてんじゃん」
「違うってばっ……!」
あくまでもそうやって村上くんの言葉を認めない私に、村上くんが『……ったく』と苦笑する。
私もつられて、なんだか泣き笑いみたいになってしまった。
「……ありがと」
それでも、それはちゃんと伝えた。
それだけは、伝えないとと思った。
「────え!?」
そのとき突然、頭上から降ってきた声。
「やだ村上…… 琴音泣かせて何やってんの!?」
飲み物を手に戻ってきた加奈が、私たちを見て驚いていた。
「は!? 俺じゃねーし!」
「じゃあなんで琴音がこんなことなってんのよ!」
「こいつが勝手に泣いたんだよ!」
「村上が泣かせたんでしょ!」
「違うって……!」
加奈の剣幕に、焦る村上くん。
見てたらなんだかおかしくなって、思わず声を出して笑ってしまった。
「やだもうふたりとも……!」
こらえていた涙が溢れるように出てきて、笑いながら目元を拭う。
……本当に。
ふたりとも私にとって大事な存在だなって。
ありがと、って──心の中で何度も呟いた。
ふたりはそんな私の様子を不思議そうにしばらく見ていたものの、やがて、合わせるように笑ってくれたのだった────。